拾参話 ページ16
目の前には昆布醤油のいい香りを出している鮭大根。
そして隣には、その鮭大根をも黙々と食べている冨岡さん。
(どうしてこうなった)
鮭大根すきか、何て唐突に意味不明な問いをしてきた冨岡さんに何とも曖昧な返事を返したあの後、私の許可を得るでもなく近場の食堂に連れてこられたのである。そして目の前に運ばれたのは鮭大根。
意味が分からないって?大丈夫。私も現在進行形で意味が分からなくて吐きそう。
「食べないのか」
私が考え込んでいると、食べる手を止めて聞いてくる冨岡さんに促されて、鮭大根に手を伸ばした。
(あ、おいしい)
おでんの大根とは違う鮭の風味がまたいい......じゃなくて。
「ぁ、あの、何で突然昼食に誘ってくれたんですか?」
「............」
(無視ですか)
いや分かりますよ?食べてる間は喋れないんですよね?でもせめて頷くとかなんとか反応を返してくださいよ。
なんて悪態を吐く。勿論心の中で。
隣に座る冨岡さんは相変わらず黙々と鮭大根を食べている。それでもいつもの仏頂面が心なしか緩んで見えるのは、今食べているのが彼の大好物だからだろう。
――実をいうと、冨岡さんとご飯を共にしたのは初めてではない。
冨岡さんにお昼時こうして会ったりすると、よくご飯に誘ってくれていたのだ。一緒に甘味処に行ったこともある。
冨岡さんの稀にみる緩み顔は見ていて微笑ましいものであるし、冨岡さんと食事をするときは無暗に話さなくていいから正直、冨岡さんと一緒にいるのは嫌いではない。
でも今回ばかりは違う。問答無用で連れてこられたのは初めてだ。マジでなんか喋ってほしい。切実に。
「A」
「は、はい」
突然に名前を呼ばれて隣を向くと、冨岡さんが私の方をじぃ、っと見つめている。冨岡さんの目の前に置かれている皿は空になっているから、もう食べ終わったらしい。
冨岡さんは暫く私のことを見た後、ふと口を開いた。
「任務、大変だったようだな」
相変わらず無表情で口足らずな冨岡さんは何を考えているか分からない。それでも......
(任務......つい昨日の任務のことだろうか)
今回連れてこられた理由が何となく分かった。冨岡さんのことだ、きっと心配するだろうと思って言わないようにと思っていたのだが、もうすでに伝わっていたらしい。
私のことを少しでも気にかけてくれたのだと、ふと顔が緩むのが分かった。
1022人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あぶらげ(プロフ) - 黒豆粉さん» ありがとうございます!更新も遅れてしまいすみません (2019年11月30日 11時) (レス) id: 206dd23a10 (このIDを非表示/違反報告)
あぶらげ(プロフ) - りっつーさん» ありがとうございます! (2019年11月30日 11時) (レス) id: 206dd23a10 (このIDを非表示/違反報告)
黒豆粉 - ナニコレ…好きッッッッッ!!!!、!!!!続きが気になる!!!!!更新頑張ってください!!!!応援しています! (2019年11月24日 18時) (レス) id: a216a85358 (このIDを非表示/違反報告)
りっつー - ヤバい、好きっす (2019年11月11日 16時) (レス) id: 8fa946d002 (このIDを非表示/違反報告)
あぶらげα(プロフ) - あかさたなさん» ありがとうございます!嬉しいです!! (2019年10月22日 0時) (レス) id: 768a447251 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あぶらげα | 作成日時:2019年9月22日 14時