進路 ページ38
◇
「お疲れ様です！遅れてすみません」
既に部活が始まっている体育館に遅れて入ると、レシーブ練をしている最中にも関わらず、バッとみんなからの視線が向けられる。
「あぁ！！っAさん！！」
私が遅れてくるのなんて珍しいからかな…と気にせずコートに入ろうとすれば、リエーフが焦ったように私の名前を呼んで近寄って来る。
振り返ってどうしたのかと聞き返せば、リエーフは目に涙を浮かべ、心配して近づこうとすれば練習中だぞと黒尾がすかさず注意する。
「A、来てすぐで悪いけど時間測ってくれ」
「っはい！」
リエーフが何を言いたかったのか気になるが、私は後でねと口パクをしてリエーフに手を振り、何が何だか分からずタイマーのボタンを押した。
◇
「休憩ー！」
「「あーっす」」
黒尾が休憩の指示を出すと、体育館の片隅に置かれたドリンクを取りに一年生が走り出す。
籠に入った容器の丁寧な入れ方を見て、私がいない間にドリンクを作ってくれたのが優生だと分かり、お礼を言うために一年生の元へ向かった。
「優生、仕事任せてごめんねー？
ドリンク作ってくれてありがとう」
そう言って笑いかければ、優生はっはい！といつもみたいにニッコリして振り返るが、私の顔を見た途端に涙目になる。
えっえっなんで？！とアワアワしながら、目を擦る優生の周りをウロウロしていると、Aさんと嗚咽混じりに名前を呼ばれた。
「…Aさん…ぼ、僕…
Aさんに部活やめて欲しくないです」
「…え？」
ピタリと動きを止めて放心していると、うわーんと声を上げて泣き出す優生に、私はやっと我に帰る。
「ていうか、Aさん一緒に春高行くって
約束したじゃないですかー！！」
そう突如叫び出したリエーフは、自分がでかいことを忘れているのか、やめないでください！と思いっきり私にタックルしてきて、ぐえぇと私は吹き飛ばされて何かにぶつかる。
「っAさん…！おれ、俺ぇ…！」
何にぶつかったかと思いきや、鼻水と涙をここぞとばかりに垂れ流す虎ががっしりと私を支えてくれており、上を見あげるとごしごしと痛そうな音を立てて顔を擦っている。
うわーんうわーんと、大の男たちが大声を出して固まる異様な光景に驚きながら、私は奥でこちらの様子を眺める3人を見て、何となく話の流れを察した。
「私、部活やめない」
◇
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作者名：西川あや | 作成日時：2022年10月7日 1時
