鼬 ページ30
◇
「井闥山、次は準決だよね？」
頑張れ！と拳を固く握って応援すれば、絶対に勝ちますと二人からは力強い返事が返ってくる。
午後の準決勝で勝つことができれば、全国に行ける学校が確定するので、特に気合いが入っている様子だ。
「っあ、そういえば
音駒の3年生たちってこの後どうするんですか？」
まさか引退しませんよね？と首を傾げて聞いてくる古森くんに、黒尾たちはみんな残るってと先程話し合ったばかりのことを伝える。
やっぱり！と納得したように相槌を打つ古森くんが、Aさんは…と言うのと同時に、私は残らないのかと佐久早くんが被せ気味に聞いてくる。
「うん。もちろん私も続けるつもり」
まだ全国にも言ってないし、このままじゃ辞められないからね！と笑うと、なんだか嬉しそうですねと小森くんに指摘される。
「え、うそ。そんな顔してた？」
「っふふ、はい」
普段からAさんってわかりやすいですけどと笑う古森くんに、恥ずかしくなって両手で顔を隠していると、二人から堪えるような笑い声が聞こえた。
「みんな同じ気持ちだって知れて…安心したからかな」
どうしたって部活って温度差ができてしまう物だけど、みんな同じように残りたい、全国に行きたいってずっと思っていたことが嬉しくて。
そう私が顔から手をどかしてみると、佐久早くんが優しい顔で頷いてくれるのが見える。
「そういうの羨ましいなぁ」
「え、井闥山は残らないの？」
「うちの3年、レギュラー以外はほとんど引退しちゃうんです」
先輩のマネさんたちもみんな引退するって聞いたし、音駒が羨ましいですと古森くんが寂しそうに話した。
・
「っぁあ！こんなところにいた！」
私たちがその後もしばらく話していると、突如、佐久早、古森！と二人と同じジャージを来た人が、焦ったような声色で監督が呼んでるぞと息を切らしながら伝えてくる。
っうわやば！と驚いたように走り出す古森くんは、くるっとこちらを振り向いて、またあとで！と笑う。
そんなに古森くんに手を振っていると、キュッとシューズの音を鳴らして私の目の前に立つ佐久早くん。
早く行きなと催促しても、なかなか動き出す様子のない佐久早くんを見つめていれば、ぱっと顔をあげた佐久早くんと目線がかち合った。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1553人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：西川あや | 作成日時：2022年10月7日 1時
