IH ページ23
◇◇
『A！
なんであの日来てくれなかったのさ！！』
朝6時、何度無視してもかかってくる着信音に魘されながら、薄い意識の中で通話ボタンを押すと耳の奥に響く幼馴染の声。
烏野との練習試合後、私たちが新幹線に乗り込んだのと同時刻に、今駅の前にいるから会いに来てと無理な難題を押し付けてきたのだ。
いくら幼馴染とはいえ、帰りのチケットがあるし、さすがにめんどくさいと伝えたのだが、最終的には全く聞く耳を持たない徹をはじめが物理的に黙らせてくれた。
「…ソレ、もう１ヶ月も前の話なんだけど」
『Aと会えるまで続けるって言ったでしょ！』
よくもまぁ飽きないこと…と嫌味を言いながら、徹のことだ本当に続けるに違いないと諦めてため息をつき、電話をスピーカーにしてベッドから起き上がる。
そして、電子時計に表示される日付を見れば、なぜ今朝に限って妙に早い時間に電話が来たのか納得した。
「…今日、烏野とあたる日か」
宮城のインターハイはもう始まってるし、烏野が順調に勝ち上がっていることは潔子ちゃんから連絡を貰っていた。
「応援行けなくてごめんね」
『ほんとだよ。約束したのに』
今日も練習あるからと謝ると、電話越しでも分かるほどムスッとした声で話す徹。
そんな徹が少し可愛くなって笑いを零せば、何がおかしいのかと更に不貞腐れてしまう。
「徹とはじめのこと、一番応援してるよ。」
しかし、そう私が昔みたいに素直な言葉を送れば、ピタッと話すのをやめて、徹は...ずるいと小さく声を漏らした。
◇◇
そんな電話をした日から数週間後、東京のインターハイ予選が始まった。
「あなたがAちゃんね！！」
そうハツラツとした声を上げるのは、ミルクティー色の髪が良く似合うハーフ美女。
なんて綺麗な目なのかとボケっと見つめていれば、キュッと優しく両手を包まれ、いつも弟がお世話になっていますと、誰かを彷彿とさせる笑顔でこちらを覗き込む。
「っぁあ！リエーフのお姉ちゃん！」
「うふふ、当たり！」
あの子の言ってた通り、ほんとに可愛い子がマネージャーなのね〜！と白いロングスカートをヒラヒラさせて喜ぶ姿はまるで妖精。
慌てて私が自己紹介をすると、リエーフのお姉ちゃんは灰羽アリサです、よろしくねと腰を折って私にニッコリ笑いかけた。
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作者名：西川あや | 作成日時：2022年10月7日 1時
