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第七波 ページ8

その夜はやけに涼しかった。

山吉は外灯と車の光で明るい通りを歩きながら、スーツの上着を左腕に抱え、腕捲りしていた袖を戻していた。
吉良の付添として国会に赴いた彼だが、審議中の彼の鋭い双眸は常に相手方にあった。主に、壇上で主君と争う浅野に。
…今度、今度こそ。
大通りから寂れた道へと足を踏み入れる。足元を通り過ぎようとした鼠が、殺気だった山吉に驚いたような鳴き声をあげて引き返していく。

「…主君を守り切ってみせる」
脱線しかけた目的を訂正しながら呟いた。


からら、と引き戸を開けるとすでに何人かいるようで、賑やか雰囲気が漂っている。
らっしゃい、と厨房の奥から店主が出てきて言った。
外はぐるぐると不穏な空気に包まれているのに、此処だけは本当に”そのまま”。…だからこそ、山吉は此処に通っていた。
いつものを頼む、と店主に言った矢先。斜め後ろの座敷の席に、カーキ色の軍服を纏った二人が胡座を掻いて酒を飲んでいるのが視界に入った。脳裏で疼く何かに太腿に置いていた右手を握り締める。

黒と白のだんだら模様の羽織に、兜の前立ての右二ツ巴が鈍い光を放っていた。

山吉は、何故彼奴等が此処に居る、という疑問を抱きながら、いつの間にか置かれていた寿司を口に運ぶ。再び横目で一瞥すると、向かい合った反対側に座る男が気になった。
ちびちび酒を含みながら、時々困ったような笑顔を浮かべる。軍人のくせに、いかにも優男そうだった。

「…………」
最後の一つを口に詰め込み、皿を上げて立ち上がる。と、胡座を書いている男一人と目が合う。大石だった。
滲み出そうになる殺気を抑えながら、鋭い目で大石を見据える。
暫しの間二人は互いに見つめ合っていたが、やがて目線を外し、山吉は厨房に向かって「勘定」と言った。

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嵩画鯉城@トラ!トラ!トラ!(プロフ) - 月読命さん» ありがとうございます(o^^o) そうなんですね〜、死後百年ですか…この小説の舞台は若干微妙な年代なので、その辺り気を付けて書いていこうと思います。 (2017年10月6日 18時) (レス) id: 3ce9c05f06 (このIDを非表示/違反報告)
月読命 - 更新がんばってください!ちなみに歴史上の人物の場合、死後およそ100年で名前をかってに使われない権利みたいなのが消えるみたいです。 (2017年10月2日 20時) (レス) id: 3990fcd378 (このIDを非表示/違反報告)
蘭秀@ニイタカヤマノボレ(プロフ) - あんこ(ろ)餅さん» コメントありがとうございます。歴史上の人物を使用する場合はオリフラを外す必要はない、と聞いたのですが…。ちなみにww2の内容については実在する団体は一切使用しておりません。 (2017年6月19日 7時) (レス) id: c435ca72cc (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(ろ)餅 - これはオリジナルですか?実在する団体などを使用してる場合はオリジナルフラグを外してくださいね (2017年6月19日 7時) (レス) id: db0d61df1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蘭秀、鯉城 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年6月11日 19時

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