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第二十一波 ページ22

「で…『泉岳寺』について訊いても?」

やっと腰を下ろした途端、大石は言った。
「いきなり直球な…」
曖昧な苦笑を浮かべた高田に大石もわずかな笑みを見せる。しかし、すぐに真剣な表情に変わり高田を見つめた。一瞬たじろいだ高田だったが、彼もまた覚悟を決めたように大石の目を真っ直ぐに見つめた。

「元禄14年。えーと…皇紀2361年。播州赤穂藩主浅野長矩公、江戸城内にて吉良義央公に刃傷に及ぶ。将軍、徳川綱吉公は酷くお怒りになられ、長矩公は即日切腹。そして」

まるで講談師のようにスラスラと紡がれる物語は、確かにあの「記憶」だった。

「浅野内匠頭家臣…大石内蔵助を始めとする47名はその1年9ヶ月後、吉良上野が屋敷に討ち入り彼の首級を挙げる」

台詞を引き継ぐように口を開いた大石に、高田はハッとしたように目を見開いた。

「大尉…やはり」
「いや、夢でそんな話を見たというだけだ」

それからどこか遠くを見つめるかのように視線を彷徨わせ、大石は続ける。
「全部、夢だ。夢でなくてはならない。俺は仏教徒ではない…!」

「その通りであります」
高田は即答した。大石の言葉にかぶせるかのような勢いであった。

「徳川幕府に綱吉という名の将軍はおりません。元禄という年号さえ存在しないのです。偶々、本当に全くの偶然、自分は大尉と同じような夢を見たらしい。それだけのことであります」

大石は頷く。そう信じてさえいれば救われると思っているかのように。

「夢の中で一人の人生を過ごしたというのはそれだけ人生経験が多いということだ。喜ばなくては、な」
自分自身に言い聞かせているとも思わせるような言葉だった。憂うる必要など全くないのだ、と。

大石の表情から、ついさっきまでの鋭いものは消えていた。思い込むことは一つの解決方法なのかもしれない、と高田はぼんやりと思った。
「全く、こんな仕事が忙しい時に急に済まなかった」
突如大石は立ち上がり、帰り支度を始める。いえ、と小さく首を振って、高田もそれに倣った。


「ああ、そういえば」
さっさと外へ出かけていた大石が、唐突に高田の方へ振り返る。

「”夢”の中での話だが。”高田郡兵衛資政”は元々急進派として活動していたが結局…」
「おやめください」

遮るように高田が叫んだ。それから思った以上に声を荒らげた事に気がつき、彼は周囲に小さく頭を下げた。
大石は何も言わず、そのまま夜風の中を歩き出した。

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嵩画鯉城@トラ!トラ!トラ!(プロフ) - 月読命さん» ありがとうございます(o^^o) そうなんですね〜、死後百年ですか…この小説の舞台は若干微妙な年代なので、その辺り気を付けて書いていこうと思います。 (2017年10月6日 18時) (レス) id: 3ce9c05f06 (このIDを非表示/違反報告)
月読命 - 更新がんばってください!ちなみに歴史上の人物の場合、死後およそ100年で名前をかってに使われない権利みたいなのが消えるみたいです。 (2017年10月2日 20時) (レス) id: 3990fcd378 (このIDを非表示/違反報告)
蘭秀@ニイタカヤマノボレ(プロフ) - あんこ(ろ)餅さん» コメントありがとうございます。歴史上の人物を使用する場合はオリフラを外す必要はない、と聞いたのですが…。ちなみにww2の内容については実在する団体は一切使用しておりません。 (2017年6月19日 7時) (レス) id: c435ca72cc (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(ろ)餅 - これはオリジナルですか?実在する団体などを使用してる場合はオリジナルフラグを外してくださいね (2017年6月19日 7時) (レス) id: db0d61df1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蘭秀、鯉城 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年6月11日 19時

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