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第二十波 ページ21

やっと仕事に目処が立ちそうだ、と高田は小さく溜息を吐いた。選挙は目前に迫り、帰宅時間は日に日に遅くなっている。このままでは泊まり込みの日も近いぞ、と苦笑しながら彼は荷物を纏め、部屋を出た。

「…泉岳寺、か」
誰もいない廊下でぽそりと呟く。
返事をするかのように冷たい風が吹き抜けていった。

彼はよく夢を見る。ただの奇想天外な夢ではなくひどく現実味を帯びた…いや、それは彼自身ではない一人の人間の一生の記憶だった。
夢を見る前から全て知っていた、そんな気さえする物だった。

泉岳寺に行ったのはつい最近のことだ。
彼の「記憶」の中で、その地には墓があった。記憶の中の「彼」が敬愛していた主君の墓。そして、一体何故だかは知らないが自分と、その仲間等の墓も。
しかし、高田が訪れた時、そんなものは存在しなかった。住職に聞いても「そんな墓は知らない」と言われた。
全て自分の夢の中の妄想に過ぎなかったのかとも思った。いや、むしろそう思う事で変な記憶に惑わされまいとした。

――行った事がある…のかも知れんが、いつだったかは思い出せない

昼間の大石の言葉が彼の頭の中で回り続ける。
まだ盧溝橋の事件が起こるより前だったか、大石は言っていた。高田が見たあの「夢」と同じような夢を自分も見る、と。やはり、大尉殿は記憶を…昼間の大石の笑みを思い出しながら、彼は延々と考え続けていた。

「お、高田」

考えに没頭していた彼は、名を呼ばれハッと顔を上げた。

「大石大尉殿、お疲れ様です」

彼の思考を占領していた人物の姿を認め、反射的に敬礼をする。さっきまでの考え事を悟られぬよう取り繕ったような笑みを貼り付けて。
そのまま「それでは、失礼致します」と帰ろうとした高田だったが、大石に制止され立ち止まる。

「高田。其方こそ疲れているだろうに申し訳ないが、少し話さないか」
「……わかりました」

逃げるのは無理だな、と苦笑いを浮かべる。

「全て、お答え致します」

そう答えた高田に、大石は満足そうに頷いた。

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嵩画鯉城@トラ!トラ!トラ!(プロフ) - 月読命さん» ありがとうございます(o^^o) そうなんですね〜、死後百年ですか…この小説の舞台は若干微妙な年代なので、その辺り気を付けて書いていこうと思います。 (2017年10月6日 18時) (レス) id: 3ce9c05f06 (このIDを非表示/違反報告)
月読命 - 更新がんばってください!ちなみに歴史上の人物の場合、死後およそ100年で名前をかってに使われない権利みたいなのが消えるみたいです。 (2017年10月2日 20時) (レス) id: 3990fcd378 (このIDを非表示/違反報告)
蘭秀@ニイタカヤマノボレ(プロフ) - あんこ(ろ)餅さん» コメントありがとうございます。歴史上の人物を使用する場合はオリフラを外す必要はない、と聞いたのですが…。ちなみにww2の内容については実在する団体は一切使用しておりません。 (2017年6月19日 7時) (レス) id: c435ca72cc (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(ろ)餅 - これはオリジナルですか?実在する団体などを使用してる場合はオリジナルフラグを外してくださいね (2017年6月19日 7時) (レス) id: db0d61df1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蘭秀、鯉城 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年6月11日 19時

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