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そして、今。静まり返る隣町まで逃げて、漸く帰路に着く彼女。しかし、落ち着いた頃に押し寄せてきた感情は後悔と怒りだった。男に対してじゃない、紛れも無い己へ向けた感情だ。理由は単純明快。喉にナイフが刺さったまま転がる男を置いて逃げてしまった。現実から逃げたのだから。殺し屋、「無音の死神」としての大失態。そこに賭けてきた誇りと自尊心、全てを投げ打ってでも払いきれない大きな借りは、名に恥じぬ振る舞いをしてきた彼女の心を深く深く傷つけたのだ。しかも、たった一人の男のせいで。
遠くの方で喧騒が聞こえる。恐らく、家事に気付いた住民が今頃、消火活動をしている頃だろう。いつもなら気にしない騒ぎも、今では彼女を苛立たせるのに十分な燃料だった。
どうせなら、全て燃えてしまえば良いのに。家も街も、あの男も。そしたら、私は、私は?
(満たされるのだろうか)
満たされて、どうなるのだろうか。殺人行為でしか存在意義を見出せない彼女には、到底その先の答えは導き出せない。殺す事でしか生きている事を実感出来ない彼女には──
トロトロと街灯に照らされる街を死神が通る。手堅く築き上げ、真新しい亀裂が入った「無音の死神」と言う名を背負って彼女──ロベルティーネ・ディートリッヒは、カラカラと音を立てる不気味な麻袋と、あの男の物と思われる血で濡れたナイフを携え、己が居城へとゆっくりと歩いた。
＊＊＊
「イッ、ガァッ! ……はぁ、流石に喉元に連続は回復に手間取るよ……」
一方、男は寝ている身体を徐に起こして、喉に突き刺さったナイフを勢い良く抜く。傷口から血が噴き出すも、すぐに塞がり、文字通り跡形も無く消えた。男にとって、それは普通。誰がなんと言おうと普通の事なのだ。何故なら、彼は吸血鬼と言う普通から逸脱した存在──彼にとっては当たり前──なのだから。
「また、死に損なったなぁ」
血の付いたナイフを片手で弄ばせながら、男は路地の暗闇の中へと消えていった。
かくして、理想と現実が入り混じった二人の邂逅によって、運命の歯車は鈍い音を立てながら動き出す──
第I部 「邂逅する怪異」
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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (
レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：十二月三十一日 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月18日 21時
