Half step【3】 (ページ50)

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「泊まってく？」

「…ううん、」

「あのさ、ちょっと話したいことある。」

ベッドに横になったまま、目を開けると、ベッドに腰掛けた彼が申し訳なさそうな顔で見下ろしていた。

「こないだはほんまにごめん。」

「…良規ひとりが悪かったわけやないから。
元はと言えば私が、」

「違う。力で押さえつけようとしたのは、俺やから。
別に、怖がらせたかったわけでも、悲しませたかったわけでもないねん。ただ…」

「…うん。」

「ただ、、今のこの関係に焦ってたから。」

そう言った良規は、今にもどこかに消えそうな雰囲気を漂わせていて、つい、彼の服を掴んだ。

それを見て少しだけ顔を緩めた彼は

「Aちゃん、俺本気やから。」

「なにが？」

「結婚しよって言ったことも、本気やから。」

そう言うと、ゆっくりと体勢を変えて私を腕の中に入れた。

目を閉じると途端にとてつもない睡魔に襲われる。

彼のベッドからもう起き上がれないことは確かで、目は開いているものの自分の呼吸は腹式だということにも気がついている。

「…うん、」

「寝る？」

吸い込む空気により濃い彼の匂いを感じるようになる。

「なぁ…服離してくれへんと、俺出て行けへんで。」

「…よ、」

「ごめん、許して。」

＊＊＊

「まっさん飲みすぎんなよ、」

大吾と笑いながらいる良規に声をかけた小島くんは、「あ、そうや」と話を切り替えると、

「ええ事教えたるわ。」

そう言い終えるとニヤッと口角を上げた。

「酔ったまっさんに襲われたことある？」

なにを言い出すのか、思わず小島くんの方に顔を向けると、急に動かしすぎて、後頭部がキーンと痛んだ。

「俺はあるよ。おもっきし、キスマークまでつけられた」

ここ、なんて、今は真っ白な鎖骨の辺りを指差す。

「けどな、なんも覚えてないねんあの人。
めっちゃ腹立たしくない？」

夜中、寝ぼけながら腕を広げた時に手のひらが生暖かい素肌に当たる。

「ん、」

それが良規の顔だと、少し経ってから声と香りで気付いた。

目を開けて、ごめんねの意味も込めて、頬を撫でていると、ゆっくりと開けられた双眼

「ごめん、…起こした」

無言で伸びてきた腕が背中に回って、音を立ててシーツの上を身体が滑る。

「…A、」

目を細めるように、眠りについた彼呼吸を聞きながら、ひとつの枕の上で私たちは向かい合って寄り添って眠った。

これが私が良規の彼女だった最後の夜