Half step【3】 (ページ22)

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決して広いとは言えないキッチンに並んで立つ。

すれ違おうなんて思えば、いやでも身体が触れ合う。

正門くんは、バイトの経験もあってか、今晩は俺がちゃちゃっと作るよ系男子だった。

「お塩はどこ？」

「んー？ここ。」

火の面倒をしながら、彼の手際の良さに感心していると、

「なに？Aさんがそんなに見てくるなんて、レアなんやけど。」

そう、包丁から手を離さずに私をからかってくる。

そんなこと…あるんかも。

横から見る彼の顔は、結構お気に入りかもしれない。
目を細めて、綺麗に上がっている頬。
その時できるしわまでも可愛らしくて、愛おしい。

「…料理をしてる男の人、初めて見たからかも。」

でもそんな理由とても言えそうにないから、別の理由を言う。

嘘ではない。
前の彼氏は、なーんも出来なかった。
『お母さんのご飯が最高！』って言ってるところも可愛かったけど。

「ふふ。それ、嬉しいかも。」

「あ、お父さんと斗亜は別ね？」

その点、斗亜はなんでも出来ちゃうから、お姉ちゃんとしては少しだけ悲しい。

「それは俺も。」

「なにが…？」

鍋のフタがヒューヒュー言い出して、持ちあげてズラしながら返事をする。

「オカンとAさんだけ。俺にご飯作ってくれる人。」

ポコポコ言い出す鍋を注意深く見ないといけないのに、思わず彼の方を向いてしまった。

「ほんとに？…なんか、嘘っぽい、けど。」

つい、嫌そうな声を出してたらしく、

「拗ねんといて。」

と、顔を覗き込まれる。

「なんも出来へん子ばっかやったかも。
俺、なんでもしてあげたかったんかなぁ。」

「誰が？」

「それはその、…これまでの彼女が。」

踏み込んで聞いてみると、一応彼にも過去の女というワードが言いづらいと思ってる点はあるらしい。

よかった。これでこれまでの子とは今でも仲良いとか言われたら、ちょっと受け止められない。

けど、ちょっと思わぬことを知る。

人たらしだと思ってた彼は、意外にも人たらしがタイプだったみたい

「怒ってる？」

話さなくなった私の機嫌を取るように、また声色を変えた彼が、パタンと包丁をまな板に置いた音がした。

そう聞いて、怒るようなこと言わんといて、って思ったあたり、私は本当に拗ねてたようやった。