面談の時間 ページ9
「私はね、殺せんせー」
髪を耳にかけながら、再び口を開いた。
「もし主人が私や息子を微塵も愛していなかったら、とっくに息子を連れて家を出ていると思うんです」
「…でも、そうじゃなかったから」
殺せんせーはどこか真剣な表情で頷いた。
「主人はただ、道に迷っていただけなんです」
「とても悲しい出来事があって、自分の教育者としての道を見失ってしまった」
ティーカップを握る手に、力が入る。
「えぇ。勝手ながら昔の生徒さんにお聞きしました」
「理事長先生のかつての教育方針や、変わるきっかけとなってしまった出来事もね」
「…ご存知だったんですね」
殺せんせーはチーズケーキを口に含むと、ふんわりと表情を崩した。
その緩やかな姿を見るなり、私も軽く息を整え、手の力を緩めて俯いた。
ぶどうジュースの水面には頼りない顔をした私自身がこちらを覗き込んでいる。
「本来なら、私が何とかしなければいけなかったんです。主人は…主人の教育方針は間違ってなんていないと」
「けれど、説得すればする程、主人を深く傷つけているのが目に見えてわかってしまって」
木枯らしが、立て付けの悪い窓を揺らす。
「私は、ただ普通の日常を続けることを選んだ」
「主人が羽を休められる場所は、自宅であってほしかったから。そこを守ることにした」
彼の苦しみを誰よりよくわかっていたのに
何も知らない顔をして
「酷い妻です」
私はどうかしている
初対面の方にこんな話をするなんて、おそらく疲れているのだろう。
誰かに相談出来たらと思わない日はなかったが、これではこの先生にとって良い迷惑だ。
「いいえ。それは違います」
一瞬にして殺せんせーの顔が青色に変化し、中心には大きなバツ印が浮かぶ。
「まぁ！」
「凄いわ、驚いた。どういう仕組みなのかしら」
「ヌルフフフ、皮膚の色は変幻自在ですよ」
そう言うと殺せんせーは顔のバツ印を消し、元の黄色い体へと戻った。
まるでマジックショーでも観ているようだ。
「浅野君のお母さん、貴方は決して酷い奥様などではありませんよ」
「きっと理事長先生も同じ事を仰います」
「…ふふ、光栄です」
「おや、差程信じていないようですねぇ」
特殊な音を立てながら、触手が動く。
「貴方は理事長先生とも、浅野君とも、対等に、そしてしっかりと向き合ってきた」
「それは浅野君を見ればわかることです」
「…学秀を？」
殺せんせーはにんまりと笑った。
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ミルメーク(プロフ) - 長い間お疲れ様でした！もし良ければ浅野親子関係で新しいストーリー作って欲しいです！ (3月21日 20時) (
レス) id: b3b06100e3 (このIDを非表示/違反報告)
hal - 非常に面白かったです！時間を忘れて一気に読みました。原作のイメージそのもので驚き、公式から浅野家スピンオフとして出せる作品だと感じました。私も学秀君が正気を保っていられたのも、浅野家が家族として何とか機能していたのも奥さんの存在が大きいと思っています (2023年3月13日 1時) (レス) id: 96f1185981 (このIDを非表示/違反報告)
キャラメルコーン(プロフ) - 奥様が泣いたてしまったシーンが私の中で凄く感動して泣きました、これからも更新する予定でしたら更新していただけると嬉しいです！ (2022年9月2日 0時) (レス) id: bee3de3e8f (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - おもちゃ箱さん» コメントありがとうございます。キャラの口調等は特に気をつけて書いているのでそう言って頂けると嬉しいです！ありがとうございます。更新これからも頑張っていきます。よろしくお願いします。 (2022年2月24日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おもちゃ箱(プロフ) - キャラの特徴がすごくつかめていて、読んでいて違和感がないです！！お話も本当に面白いです！更新待ってます！ (2022年2月23日 21時) (レス) @page17 id: c78fba56e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おむれつ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2022年1月11日 19時
