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彼女は本当に楽しい時には声を上げて笑う。
私はそんな事すらも忘れていた。
「ねぇ學峯さん。体調が戻ったら、E組の先生のところへご挨拶に行ってもいいかしら」
「貴方をここまで変えてくれたんだもの、きっと素敵な先生なんでしょう」
彼女は2、3回息を吹きかけた後、卵粥を口に運ぶ。
「うん、とっても美味しい。柚子が入っているのね」
独り言のようにそっと呟くと、彼女は顔を綻ばせた。
3年E組の担任、殺せんせーは国家機密の存在だ。
当然だろう。マッハ20で空を飛び、ヌルヌルとしたタコ型の黄色い巨体には数え切れない触手が生えていて
おまけに月を7割方蒸発させた主犯とされている生物だ。
平然と外の世界で生活出来るわけがない。
それなのに、当の本人は曖昧な関節の人間に擬態してスイーツを買い占めたり、奇妙な笑い声を上げながら街の女性に近づいたり。
そのせいでここ近辺には不審者情報が後を絶たない。
「學峯さん、どうかしたの？」
返答に迷っていると、彼女は僅かに顔を傾けた。
「…まぁ。君なら、大丈夫だろう」
「あの方は甘党だ。何かスイーツを持っていくと良い」
彼女の口の堅さは信頼している。
それに人一倍肝が座っており、思慮深い彼女であれば、騒いで事を大きくすることもないだろう。
「何だか急に秋めいてきたわね。外が寒そう」
彼女は窓の外の景色を見つめて、眉を下げた。
「ねぇ學峯さん、学年末のテストが終わってからでいいから、また家族三人で旅行に行きたいわ」
「妻からのおねだり、とでも言ってみようかしら」
やや照れくさそうに、彼女は肩を竦めた。
「あぁ。構わないよ。あの子が何というかはわからないけどね」
「ふふっ、心配しなくてもきっと来てくれるわよ」
「お互いちゃんと相手のことを思っているのに、貴方達父子は素直じゃないんだから」
住宅街を抜けた先、窓の向こうには小さくE組がそびえ立つ山が見える。
空は高くなり、力強く揺れていた緑の葉は日を追う事に色を落とし始めていた。
「学秀には本当に心配をかけたわ」
「あの子、貴方と喧嘩した時に慰めてくれたのよ」
彼女が前かがみになると、色素の薄い髪が掛け布団に広がっていく。
「あの子はきっと、もうずっと前から、私が思っているより子供じゃなかったのね」
「私も今日“母さんにも謝罪をしてください”と釘を刺されてしまったよ」
顔を見合わせ、私達は笑った。
秋の空気は澄んでいる。
どこからか風に乗って金木犀の香りがした。
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ミルメーク(プロフ) - 長い間お疲れ様でした！もし良ければ浅野親子関係で新しいストーリー作って欲しいです！ (3月21日 20時) (
レス) id: b3b06100e3 (このIDを非表示/違反報告)
hal - 非常に面白かったです！時間を忘れて一気に読みました。原作のイメージそのもので驚き、公式から浅野家スピンオフとして出せる作品だと感じました。私も学秀君が正気を保っていられたのも、浅野家が家族として何とか機能していたのも奥さんの存在が大きいと思っています (2023年3月13日 1時) (レス) id: 96f1185981 (このIDを非表示/違反報告)
キャラメルコーン(プロフ) - 奥様が泣いたてしまったシーンが私の中で凄く感動して泣きました、これからも更新する予定でしたら更新していただけると嬉しいです！ (2022年9月2日 0時) (レス) id: bee3de3e8f (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - おもちゃ箱さん» コメントありがとうございます。キャラの口調等は特に気をつけて書いているのでそう言って頂けると嬉しいです！ありがとうございます。更新これからも頑張っていきます。よろしくお願いします。 (2022年2月24日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おもちゃ箱(プロフ) - キャラの特徴がすごくつかめていて、読んでいて違和感がないです！！お話も本当に面白いです！更新待ってます！ (2022年2月23日 21時) (レス) @page17 id: c78fba56e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おむれつ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2022年1月11日 19時
