父の時間 ページ34
「すまなかったね」
「Aさん」
驚いた。
その時、ようやく“彼”と目が合った気がした。
夫に愛想を尽かした訳では無い。
今の夫も人として十分に尊敬しているし、家庭の為に働いてくれていることに日々感謝もしている。
けれど、やはり私はずっと会いたかったのだ。
今よりお金があった訳ではない。
互いに初めての事に一生懸命で、たくさん迷った。
そんな日々でも楽しそうに生徒の話をして、毎日のように息子の寝顔を愛おしそうに見つめて
温かく私を抱き締めてくれた
あの時の學峯さんに。
「學峯さん」
涙を流しながら、なんと大人気ないと思った。
彼に泣き顔を見られなくてよかった。
きっと目も鼻も赤くなって、お化粧も崩れてしまって、こんな酷い表情は見せられない。
「何だい。Aさん」
學峯さん、私ね
貴方の大きな手が好きよ
貴方に名前を呼ばれるのが好きよ
だから、もっとね
「…ふふっ、あははっ」
「あははははっ…！」
背中の大きな手の感触だけでも、彼が戸惑っているのが十分に伝わる。
それが余計に可笑しくて、私は少しだけ品の無い笑い方をした。
笑っているうちに、次第に厚化粧で塗りたくられた心も晴れていくのがわかった。
「言えないわこんな事。あと二十歳若ければよかったのだけれど」
「あーあ、おかしい。泣きながら笑うなんて」
腕を緩めて、彼の目を見た。
瞳の中には、予想通り泣き跡だらけの酷い顔をした私がいた。
ボロボロでも、もう良いのだ。
「何だか元気が出てきたわ」
十年分の涙を流した後は、今までの日々が嘘のように心が軽かった。
心臓が綿でできているような気さえした。
「今日は安静にしていなさい。夕食は私が作るから」
「そんな、いいのよ」
「君はすぐに無茶をするだろう」
水滴を指で拭うと、再び頬が緩んでいく。
あぁ、私はどうしようもなく嬉しいのだ
叫びたい程に、喜んでいるのだ
「それと今週末、浅野君…いや、学秀と裁判所に行ってくるよ」
「裁判所？」
その単語とは不相応に、彼は何処か楽しそうだった。
「昨日の件について互いに訴状を出して法廷で戦おうと、車の中で話していてね」
「私の予想では三百万は取れると見ているが…相手はどう来るか」
夫と息子が二人で出かけるなど、一体何年ぶりか。
二人は二人なりに歩み寄り、今までとは違った形の親子になろうとしているのだ。
嬉しかった。
「お弁当はいるの？」
なので私もその成長を、見守ってみることにした。
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ミルメーク(プロフ) - 長い間お疲れ様でした！もし良ければ浅野親子関係で新しいストーリー作って欲しいです！ (3月21日 20時) (
レス) id: b3b06100e3 (このIDを非表示/違反報告)
hal - 非常に面白かったです！時間を忘れて一気に読みました。原作のイメージそのもので驚き、公式から浅野家スピンオフとして出せる作品だと感じました。私も学秀君が正気を保っていられたのも、浅野家が家族として何とか機能していたのも奥さんの存在が大きいと思っています (2023年3月13日 1時) (レス) id: 96f1185981 (このIDを非表示/違反報告)
キャラメルコーン(プロフ) - 奥様が泣いたてしまったシーンが私の中で凄く感動して泣きました、これからも更新する予定でしたら更新していただけると嬉しいです！ (2022年9月2日 0時) (レス) id: bee3de3e8f (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - おもちゃ箱さん» コメントありがとうございます。キャラの口調等は特に気をつけて書いているのでそう言って頂けると嬉しいです！ありがとうございます。更新これからも頑張っていきます。よろしくお願いします。 (2022年2月24日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おもちゃ箱(プロフ) - キャラの特徴がすごくつかめていて、読んでいて違和感がないです！！お話も本当に面白いです！更新待ってます！ (2022年2月23日 21時) (レス) @page17 id: c78fba56e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おむれつ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2022年1月11日 19時
