。 ページ30
彼女と結婚した理由を、多くの人が知りたがった。
最初はただの冷やかしかと思っていたが、皆本気で疑問に感じているらしい。
“お前も人を好きになるんだな”
“意外だよ！何でも出来る完璧超人様だ。恋愛感情なんてものはなさそうなのに”
友人達は口を揃えてそう言った。
そしてそれは彼女の友人も同様なようで、結婚当初は二人で頭を抱えたものだ。
「何故ですかね。昔から私と妻はよく関係性を疑われることがありまして」
殺せんせーは珈琲をスプーンですくい、息をふきかけながら少しずつ飲んでいく。
見ていて歯痒いが、どうやら猫舌のようだ。
「仮面夫婦だビジネスカップルだと言われた時は、正直笑ってしまいましたがね」
ほろ苦い珈琲が、喉元を流れていく。
「どんな完璧なものにも水を差したがる輩がいますからねぇ。困ったものです」
「ですが理事長先生、あなた方夫婦はそんな小さな事になど屈しないでしょう」
目を釣りあげて笑う殺せんせーに「当然ですよ」と返すと、私も殺せんせーに習って珈琲に砂糖とミルクを入れてみる事にした。
「私が彼女を妻に選んだ理由は、皆が考えているよりもずっとシンプルなものですよ」
黒い水面に、渦をまくように白いミルクが、砂糖が溶けて広がっていく。
「彼女といる日々は、私が唯一羽を休めることが出来る時間だった。結婚する前も後も、ずっとね」
彼女は私に完璧さなど少しも求めてはいなかった。
一緒にいてくれるのが幸せなのだと笑った。
生徒の話を楽しげに聞き、時には共に解決策を考えた。
彼女は私の代わりに鈴を転がしたように笑い、悲しみにくれた時には隣で大粒の涙を流した。
私の手に置かれた彼女の手は、小さくも力強かった。
「それだけの事です」
「合理的でないと言われれば、それまでですが」
殺せんせーは頬を染め、触手で口元を抑えながらニヤニヤと笑った。
その姿に若干苛立ちを覚えつつも、スプーンでゆっくりと珈琲を混ぜていく。
いつしかその匂いには甘さが加わっていた。
________
『私は_____ 』
告げた後、彼女の澄み切った一切の濁りのない瞳だけが揺れていた。
木の葉の音も、鳥の声も、何も聞こえない。
やがて、彼女は幼い子供のような表情へと変わった。
『私もよ、浅野君』
『私もずっとそう思っていたわ』
頬が熟した桃のようになっていた。
指先で触れると、想像よりもずっと熱かった。
『貴方と一緒にいたい』
この時の私の顔は、最早完璧とは程遠いものだっただろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 319人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミルメーク(プロフ) - 長い間お疲れ様でした！もし良ければ浅野親子関係で新しいストーリー作って欲しいです！ (3月21日 20時) (
レス) id: b3b06100e3 (このIDを非表示/違反報告)
hal - 非常に面白かったです！時間を忘れて一気に読みました。原作のイメージそのもので驚き、公式から浅野家スピンオフとして出せる作品だと感じました。私も学秀君が正気を保っていられたのも、浅野家が家族として何とか機能していたのも奥さんの存在が大きいと思っています (2023年3月13日 1時) (レス) id: 96f1185981 (このIDを非表示/違反報告)
キャラメルコーン(プロフ) - 奥様が泣いたてしまったシーンが私の中で凄く感動して泣きました、これからも更新する予定でしたら更新していただけると嬉しいです！ (2022年9月2日 0時) (レス) id: bee3de3e8f (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - おもちゃ箱さん» コメントありがとうございます。キャラの口調等は特に気をつけて書いているのでそう言って頂けると嬉しいです！ありがとうございます。更新これからも頑張っていきます。よろしくお願いします。 (2022年2月24日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おもちゃ箱(プロフ) - キャラの特徴がすごくつかめていて、読んでいて違和感がないです！！お話も本当に面白いです！更新待ってます！ (2022年2月23日 21時) (レス) @page17 id: c78fba56e9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おむれつ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2022年1月11日 19時
