これが恋だなんて信じないⅡ (ページ46)

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チャンスページ46

電話を切ってカバンに入れたところ、電話が鳴り出した。いや今しまったのに…全く誰だよ……

宛名を見ると、マネージャーの菜珠凪からだった。

菜珠凪は私と同い年で、私が事務所に入った同時期にマネージャーとして今の事務所に所属することになった。

菜珠凪は私より10センチも背が小さくて、くせっ毛の長い茶色がかった髪をいつも後ろでまとめている眼鏡っ子。眼鏡はとても度が強くて、私も悪い方だけど、つけるとぼやけて何にも見えない。因みに、菜珠凪は「なずな」と読む。「当て字すぎて読めん」って本人も言っているけど、可愛い名前だと思う。しっかりしていて謙虚で、実は笑いのツボが浅い。お互い新人同士で慣れないことも多いけど、手を取り合って頑張っている。

「はい、菜珠凪どうしたのー？」

私がのんびりと出たのに対し、菜珠凪はえらく急いでいるというか、興奮した様子で勢いよく話し始めた。

『ねぇ、聞いてA、さっき事務所に呼ばれて行ったんだけど、A、CD出さないかって！しかも出すんなら地上波のドラマの主題歌に使ってくれるって！！』

「………はっ？！え、はい？！全然意味わからんなんでっ？」

CDって……CDだよ？！アーティスト活動ってことだよ？確かにavexはそういうのの大手で、自社でCD作れるから、アーティスト活動をさせるのは簡単だけど、なぜにこんな無名の私……？しかもドラマの主題歌起用ってどんな好待遇よなんで？

アーティスト活動。略してアー活。
俳優やら声優やら、本業が別にあるんだけど、それとは別に歌手みたいな活動とか、バンドをしてCDを出したりライブをしたりする活動のこと。この間洸さんもCDのリリースイベントで地方を廻っていた。

『優曇華に出ることになったのもあって、ゲネ見に来た関係者の偉い人がすごいAのこと評価してくれたらしくて、オーディションの情報とか持ってきてくれたの。それで、うちの社長もそろそろAを売り出そうってことになったらしくって、その最初のステップとしてアーティスト活動をしないかって』

「知らんうちにそんなことが……」

ふと思い出した。そういえば、一昨年の専門学校での事務所オーディションに受かった後、avexの社長に、「最初の1年ぐらいは経験を積んでもらって、それからちゃんとサポートして、世に出て行けるようにするから」って。

これは、チャンスなのかもしれない。