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第伍話 ページ6

差し出されたのはお菓子だった。
木目菓子(バームクーヘン)っていう物だったはず。 卵の味がほんのりとして、美味しいやつ。ここにもあるんだな。有難く頂いておこう。
というか、 ほぼ他人の状態の人から食べ物を貰う程、僕はそこまでお腹を空かせた顔をしていたのだろうか?
それとも何か感じられたのだろうか?
確かにぶつかったことに関しては言い方は悪いが向こうに非がある。しかし、菓子をくれるものなのか?

「僕と、会ったことはありますか?」

「多分、ないと思うよ?」

キョトン、という効果音がつきそうに首を曲げるそのお兄さん。カワイイ系って言うものだろうか。

「あの、僕はカルメって言います。 これありがとうございます。」

顔の前で木目菓子を振ってみる。木目菓子は一番好きなので美味しく頂くことにする。

「あっ! 僕は中島敦って言います。 えっと、カルメさんですね。」

なんて言ってニコッと笑う中島さん。

「.........恐らく同年代か、僕の方が年下なのでさん付けじゃなくていいですよ。中島さん。」

「そう?じゃあ、カルメくん。ぶつかって本当にごめん。 じゃあ、僕は行くね。このお菓子を届けないといけなくて。」

あ、中島さんが行ってしまう。 やばいな、何か情報が欲しいのに。すると僕の手は勝手に中島さんのサスペンダーを掴んでいた。

「ぐぅえっ」

「僕っ その、」

何か、何かないのか。この人のを留まらせることは。

「ぐぅうううう ..................すみません。」

穴があったら入りたい、というのはこの事だろう。鳴ったのは僕のお腹の音だった。今なら羞恥心で死ねそうだ。中島さん、笑ってるし。

「ごめん、ごめん。 僕もそういうことがあったんだ。」

「僕は、その時に色々あって悪いことをしようとも考えたんだ。でも、その時に助けてくれた人が茶漬けを奢ってくれて。今の僕があるのもその人達のお陰だから。だからカルメくんと似てるなって。」

そう言って微笑む中島さんだった。

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作者名:六花 | 作成日時:2020年3月1日 0時

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