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第壱話 ページ2

夜の街に僕が立っている。 なんて言うのは可笑しいだろうか?

「僕は誰だ____」

自分から出たその小さな声。 酷く小さく弱々しい。

こんなにも暗く、静かな夜に消されてしまう程だ。 僕は誰だったかな。自分のとこを思い出せない。ここはどこだろう。僕は1人なのだろうか。 誰かが答えてくれる訳でもない問いが僕の頭を駆け巡る。名前も、歳も思い出せない。本当に 何も覚えていない。

嗚呼、冷えてきたなぁ。 今は秋だろうか? 寒さで 色々と思い出せそうな気がしてきた。こういう時って 頭は働かないのではないだろうか? その時、ポケットに入っている冷たいものに気づいた。時計?

「僕は、____の為にここに来た.........。」

先程の弱々しく、消えそうな声と違い、ずっしりと重みのある声。
僕はこんな声も出せるのか。自分で驚き、関心した。自分で言った癖にね。

僕の横には、なんだろう、パン屋かな? 喫茶店?分からないけど陳列窓(ショーウィンドウ)があった。

「うわぉ」

そんな、間抜けな声が出てしまう程に、そこに映る僕は、そこに存在する僕は、人形のように冷たく、虚ろで、酷く冷たい目だった。やっと僕の容姿が分かった。
少年か、青年、それぐらいの歳だろう。きっと 10代そこらの癖に 酷く冷たい目だなと僕は頬を引っ張って笑おうとするけれど、無表情で頬が伸びている僕がいるだけだった。

仕方なく 肩を竦めた。 おお、肩は動くのか。どうやら 表情筋が動かないらしい。まぁ、感情が出せない体かもしれないけど。自分の身体なのにこれは自分じゃない誰かとなっている感覚だった。
まぁ どうでもいいか。

僕は陳列窓(ショーウィンドウ)の中の僕に手を振って 夜の街に溶けて行った。


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作者名:六花 | 作成日時:2020年3月1日 0時

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