二十二輪 ページ23
三十分後。
脚の痛みが完全に引き、ちゃんと動かせる様になった。
さて、リナの所に向かおうか。
ベッドに手を付いて靴を履き、
頭からお化けタオルを被る。
そう言えば私、今の今まで水着のままやったんか。
あ「カッターぐらい着せてくれても良かったのに。」
稲「急いでたんだからしょうがねえじゃん。
俺だってこの下水着だけだぞ。」
そんな事を話しながら、保健室を出る。
手にしたゴーグルのレンズが、窓からの光を受けて煌めいた。
私らがプールに着いた頃には、水泳大会は佳境に近付いていた。
簡単なプログラムを頭の中に広げる。
時計台から見える時間帯と照らし合わせている内に、
いつの間にかリナがこちらに飛び込んできた。
『アルトー！』
あ「うおっ…！」
『大丈夫！？Douloureuxじゃナイ！？』
あ「…うん。大丈夫ばい。」
強く抱き締められ、胸に顔が押し当てられる。
稲「リナ、ずっと心配してたんだよね。
保健室にも着いて行きたがってたし。」
流石に止めたけどね、と続ける稲野ちゃんを
見てから改めてリナに目を移す。
その青い目からは、一筋の涙の跡が頬に浮き上がっていた。
あ「ああもう。そげん顔せんでよ。
こっちが悲しくなるばい。」
両手でリナの顔を包む様に触れ、涙の跡に親指を這わせてなぞる。
残っていた涙の粒を拭うと、彼女がにこりと微笑んだ。
『…Hehe.アルトー。』
あ「そげん心配やったんか。ごめんな、心配掛けて。」
犬の様にじゃれつく彼女の頭を撫で、安心させる。
体を離して彼女を見つめ、抑え目のトーンで一言。
あ「ありがとう、助かったばい。」
すぐに来てくれんかったらどうなっとったか。
考えただけでもゾッとする。
『どーいたマシテ！』
稲「ふふっ…。どういたしまして、ね。」
でも、リナに借りを作ってしもうたな。
二年生の部が終わって、結果発表。
この部の優勝は、うばまろ君達のクラス。
これで彼らのクラスは、明日開催の第二部に
駒を進める事が出来たという事だ。
同時に、私らのクラスは惜しくも敗退。
私があそこで脚を攣っていなければ。
そう思うと悔しくて仕方無い。
しかしそれ以上に、もっと悔しい事が。
あ「せめて、最後まで泳ぎ切りたかったな…。」
あれだけ練習してきたのに、全部無駄になってしまった。
稲「あの局面で諦めないとか格好良過ぎでしょ。ね、リナ。」
『Oui！アルト、カッコ良カッター！』
あ「…ありがと。」
私にとって悔いしか残らん一日。
水泳大会の一日目が、こうして幕を閉じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
螢羅(K-Ra)(プロフ) - 緑月翡翠さん» いつもありがとうございます！フランス語を取り入れるのは初めてだったのですが、書いていたら楽しくて楽しくて…！毎日更新、出来れば良いんですけどねえ…。貴重なご意見ありがとうございます！ (2017年4月20日 7時) (
レス) id: 575549c323 (このIDを非表示/違反報告)
緑月翡翠(プロフ) - 完結おめでとうございます！フランスや花言葉は私も大好きで、とても良かったです…！読者としては毎日更新が嬉しいのですが、ご多忙なようなので時間があれば、という形がいいと思います。次作も楽しみにしています！長文失礼しましたm(__)m (2017年4月20日 6時) (携帯から) (レス) id: b835eb55b1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
