昼の月

３４ ページ34

「…藤ヶ谷への、気持ちに…気付いたのは……」





俯いたままポツリ…ポツリと言葉を紡ぐ

ギュッと握られた両方の拳

小刻みに震えるのを包み込むように、自分の手を重ねて包み込んだ

北山の涙が俺の手を濡らしていく…





「彼女の旦那が…俺に体を求めて来て…」

「うん。」

「怖くて…逃げたくて……でも、出来なくて…」





俺達を守る為…自らを犠牲にした北山

その悔しさが震える体から伝わってくる





「体…触られてる間…」





そこまで言って、唇を噛み締めた北山





「大丈夫。話して？」





優しく促すと、俺の目をじっと見た後、覚悟した様に唇を開いた





「……彼に…抱かれてる間………俺…これが、藤ヶ谷だったら…って…」

「…っ…」

「助けて欲しいって思いながら…浮かぶのはいつだって、藤ヶ谷で……だから…」

「北山っ…」





そんな風に俺を求めてただなんて…

苦しくて…悔しくて…嗚咽を繰り返す北山をギュッと抱きしめた





「でも…彼女が…全部知って………汚いって…」

「…っ…」

「気持ち悪いって……こんな人達に自分が抱かれてたなんて、絶望だって……自、殺っ…」





北山の心の中が見えた気がした

心に受けた傷は一つじゃない

何度も傷付けられた挙句、とどめを刺したのは、愛した人の言動…





「……藤ヶ谷に知られる事が怖かった……藤ヶ谷まで失ったら、俺…」





泣きじゃくりながら、北山を包む俺の腕をギュッと掴んだ北山

その痛みが、俺に救いを求めているように感じた





「苦しかったよな…悔しかったよな…。ごめんな…俺がもっと早く北山の気持ちに気付いてたら……俺がもっとちゃんと…北山の事見てたら…こんなに北山を苦しめる事は無かったのに…」





俺の腕に縋りながら、必死に何度も首を横に振る





「もう泣かなくていいから…。俺は…北山の傍からいなくなったりしないから。」

「ふ、じがやっ…」

「辛い時は、こうして俺の手を取って。泣きたい時は、俺の胸に飛び込んできて。」

「ぅんっ…うんっ…」

「北山にとって恋愛って、辛いとか、苦しいってイメージしかないかもしれないけど…俺と一緒に変えていこう？俺、すっげぇ大切にするから、北山の事。」

「……藤ヶ谷…」

「俺の全力で、北山を守る。」





頬を流れる涙を拭いながら、真っ直ぐに北山を見つめて伝えると、北山は





「……ありがとう、藤ヶ谷。」





そう言って、笑ったんだ…





.

３５→←３３

→ 目次へ｜作品を作る
他の作品を探す