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「本当に大丈夫？家まで送っていくわよ」

「いえ、ほんと大丈夫です。今までありがとうございました。」

心配そうに見つめる部長の目に泣いてしまいそうになる。

ぐ、と奥歯を噛み締めて笑顔をつくり、一礼をして会社を出た。

瞬間心の奥から真っ黒な感情が溢れ出てくる。

なんで、なんで私が辞めなきゃいけないの

メイクで隠しきれないほどのクマ。

日に日に酷くなる睡眠不足に体調不良。

そのお陰か仕事はミスばかり、周りの人間に厄介者扱いされる始末。

それもこれも全部、あの陰湿で汚い手紙のせいだ。

見なければいいと分かっていても毎日飽きずにポストに入れてある手紙を読んでしまう。

私にこんなに強い憎悪をもった人間が同じ部署にいると考えれば考えるほど仕事に集中できない。

それでも頑張って出社して帰ってきたある日。

手紙は今までとは違う、直接危害を加えてやるという内容で、それを読んだ瞬間張り詰めていた糸がぷつんと切れる音がした。

震える手で退職届を書いて、すぐに布団の中で丸くなって目を閉じた。

…

そして今に至る。

「やばい」

ふらふらとおぼつかない足取りで少しずつ自宅に近づいていく。

これ、帰れるかな

足に鉄球でもついているのかというくらい、体が重い。

ただひたすら帰りたいという気持ちだけで足を動かす。

ふと顔を上げると見慣れたアパートが小さく見える。

「あ」

瞬間、がくんと視界が揺れた。

一瞬安堵したせいか膝の力が緩んでしまったのか、気づいた時には地面に倒れていた。

やば、誰かに見られる前に起きなきゃ…

手をつこうとしても、なぜか全身の筋肉がぴくりとも動かない。

動こうとしているのに体が動いてくれない。

色々考えているうちに悲しくなって、我慢していた分の涙がぽろぽろと溢れ出る。

悔しい、なんで私が、こんなにならなくちゃ、なんでこんなに惨めなの

「大丈夫ですか！？」

あー、人来ちゃった。最悪。

「えっ………生きてますか？救急車…」

「よばなくてだいじょぶです」

「うわぁ！！？！」

「すみません、ちょっと休んでいるだけなので」

「いや、無理がありますよ！？」

「救急車だけはどうか、大事になりたくないんです」

「じゃ、じゃあ……家どこですか？運びます」

「いや、ほんとだいじょーぶですから、ありがとうございます」

「じゃあ救急車呼びますね」

「そこのアパートです」