【KING OF PRISM】伝説の女だけど放っておいてほしい√ユキノジョウ (ページ48)

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最終話　アゲハ蝶、夢舞い恋しぐれ:α ページ48

「A、寒くないか？」

　俺の問いかけにAは何も答えなかった。ぼんやりとした目は何も映さず、俺はできる限り穏やかに微笑んで彼女の膝にブランケットをかける。

「夜に外出させてすまなかったな。許してくれ」

　膝をついてAの瞳を覗き込むが、その目が俺を捉えてくれることはなかった。
　八連続ジャンプに失敗したAは、両足を複雑骨折して医者にはもう二度と歩けないと宣告された。エーデルローズにいることはもう叶わず、氷室主宰の縁でプリズムストーンという店で暮らしている。

「A、見えるか？今日は桜が見頃だそうだ」

　車椅子を押す俺は、昔彼女が好きだった桜を見せていた。今夜は十六夜。月明かりだけで充分に見える。

「……ちょうど、十年前の今日だったな。お前が病院で目を覚ましたのは」

　両足の骨折だけで済んだら良かったのに、彼女は脳にダメージを負って廃人のようになってしまった。誰かの介護がないと生きていけない体になってしまった。

「…………すまなかった。全部、俺のせいだ。お前のショーを見たいと言って、お前の体のことを一番に考えてやれず…………俺は…………」

　……Aのことを、殺してしまった。

　その事実が俺を十年も苦しめる。彼女の前では泣かないと決めていたのに、こんなにも明日が見えないと泣き崩れてしまう。
　馬鹿の一つ覚えのように、初恋の人の名を呼び続けていた。彼女が最後に言った言葉は、俺の渾名と愛の告白だけだった。

「…………あいしてる」

　俺も、随分と前からAのことを愛していた。この気持ちを気づいたのは、彼女が寮生から恋文を拾ってしまった日だった。今思えば、それよりもずっと前から恋していた。

「…………赦してくれ」

　俺とAの思い出はあの日で止まっているのに、俺だけが夢で何度も彼女と出逢う。夢で過ごしたすべての日々は、心に刻み込まれているのか忘れたいのに忘れなれない。
　真綿で首を締められるような生き地獄でさえ愛しいと思ってしまうほど、俺の初恋は色鮮やかだった。

END