16頁目 ページ16
卒業式まであと数週間。
先輩は高校を卒業したら大学に入ってプロを目指す、って言ってたから。
私もそこの大学に入れるようにいっぱい頑張ります、追いかけますからね。って言ってた。先輩は本当にモテモテだったから、その時期になると卒業まで待てずに告白する女の子もたくさん。嫉妬心でいっぱいだった私に、「お前しか見えてへんから大丈夫」なんて慰めてくれたっけ。
「侑司くんー?」
「金子先輩なら校舎裏に呼び出されてたけど」
「え、だれだれ」
「3年の美人な先輩……名前なんだっけなぁ、」
私が先輩を頑張って探してた、その日も先輩は告白されてたんだ。
3年の美人な先輩、っていうと心当たりがあった。
伸ばしている黒髪が大人っぽくて、切れ長の目で、芸能人になれそうなくらい美人なひと。
屋上まで行って先輩の姿を探すと、その美人な女の先輩とふたりきり。
金子先輩は一瞬戸惑ったように視線を外すと、女の人がまた詰め寄る。
なにか2言3言、囁かれたあと、金子先輩は女の人の頬に手を回した。
──────見たいわけなかった。
自分の彼氏と知らない先輩が唇を重ねるところなんて、
はっきり見えるか見えないかの角度だったけど、キスしてたと思う。
私とでさえほとんどしてくれなかったことを、他の女には簡単にしてしまった。
許せなくて。女の人じゃなくて、なぜか金子先輩が許せなくて、
涙が堪えきれないまま、ずーっと屋上で一人で泣いていた。
雨が降ってきたとか、正直どうでもよかった。
私が探していたと友人から聞いたらしい金子先輩が屋上まで来て大丈夫、何があったんや、アイツらに何かされたんか。なんて問われる。「アイツらに何かされたんか」はよくわからなかったけど、お前に何かされたんだよと思ってしまう。
「──────侑司くん、私たち、別れよう」
あの日私が先輩を探していなければ。
屋上に行かなければ。
なんて、思ったことは1度もない。
そのくらい、先輩が嫌だった。
結局、何も話さないまま、目も合わせないまま金子先輩は卒業してしまって、私は先輩とは違う大学に進学した。進学先の埼玉に金子先輩がプロとしてやってきたのだから、今度こそ離れようと思った。でも無理だった。
私だって嫌いなんて言っといて、結局は先輩のことが大好きだったから。
355人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちゃみ - お話惹き込まれて一気読みしてしまいました…!ドストライクで凄く好きです。素敵なお話をありがとうございます。いつかまた更新されることを願っています! (2021年5月6日 0時) (レス) id: d0e9746bc6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:縁 x他1人 | 作成日時:2019年7月24日 22時