第三話 怪盗からの選択肢 ページ8
.
奪った宝石を返すと言うには、何か裏があるに違いない。
Aは前に佇むキッドの顔を睨み、その本心を見抜こうとした。しかし、先程Aの攻撃にひるんだこの男は、今や体裁を持ち直し改まった顔をしていて、その本心は隠れて見えなかった。
不敵な笑みを浮かべ、キッドはAに向き合った。
「……宝石をお返ししましょう。ですがそのかわり、一つだけ」
キッドは、Aの前にナーシェレを持つ手とは反対の手を突き出してきた。
何をするつもりだ、とAは不安げにその手とキッドの目を見比べた。
ポンと小さい炸裂音が立つ。キッドの手には先程まではなかった可愛らしい花が収まっていた。
差し出されたその花をAは恐る恐る受け取った。
「今宵、貴方の時間をこの私に盗ませてください」
キッドはそう言ってAの手をとった。
Aは固まって、キッドをまじまじと見た。
だって、どうしろというのだ。宝石を返すかわりにお前の時間をくれだなんて。おかしな話だ。
キッドの方は、Aからの返事を待った様子で、既に耳を澄ませていた。
彼女が宝石がかかったこの選択肢に首を横に振る筈がない。あとは彼女がOKと返事をするだけだった。
そして。
「………いつもこう騙しているんですね」
「え?」
キッドは耳を疑い、彼女の顔をみた。Aは平然とした目付きでキッドを見据えた。
騙されてAが目を離した隙に宝石を持っていくという魂胆なのだろう。
Aの猜疑の目は予想外に強く、キッドは慌てて弁明しようとした。
「違いますよ、お嬢さん。私はただ」
「いいえ、わかっています。貴方は私を騙した隙に宝石を持って逃げるおつもりなんでしょう」
「いやそうじゃ」
例え何を言おうとも、今のAはキッドに屋敷の宝を盗み出した怪盗という烙印を押してしまっていて、聞く耳を持ってくれない。
面倒なことになってきたなとキッドは冷や汗をかいた。取引を名目にあわよくば彼女とデートなんて、腑抜けたことを考えた罰だろうか。
彼女はすでに拳を構えている。考えている時間はなかった。
不意に、キッドがAに向かって手を伸ばす。Aは反射的に目を瞑った。
419人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
恋 - 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ