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怪盗キッドについて ページ47

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「それは、どうして……」

 Aが暫くして小さく尋ねた。その声には明らかに躊躇いが混じっていて、仕草もキッドの様子を伺うようなものだった。

 Aが不安を感じているのはキッドも手に取るようにわかり、また、当然のことだとも思った。

 しかしAに何も打ち明けないというキッドの意思は決して揺らがなかった。


「それも言えません」とキッドは首を横に振り、Aの問いには答えなかった。
 それでも、「ただ」と付け加え、キッドは彼女の手を無意識に握りしめた。

「然るべき時が来れば、その時には全てお話ししましょう。必ず」

「然るべき時…」とAは口の中で言葉を転がした。その時が何時なのか、本当に来るのか少しも分からなかった。

 けれど、そもそも世界中から追われている怪盗キッドがその素性を明かさぬことなど、最初からわかっていたではないか。


 Aは己の短絡的な思考を、今更ながら深く反省した。キッドにきっと迷惑をかけたに違いない。
 もうこの話は金輪際やめにしようと、Aはキッドを見つめ直した。


「わかったわ」

 そう言って頷いたAに、キッドは申し訳ないと思いながらも、無事ことが治った事にホッと胸を撫で下ろした。Aはキッドの手の内からスルリと自分の手を抜いて、立ち上がる。

「すみません」とキッドが言葉を掛けようとすると、「大丈夫」と言ってAがその言葉を遮った。Aはキッドに謝って欲しい訳ではなかった。

「貴方は人気だから、よくこっちでも報道もされてるし…それに、貴方が載ってる雑誌くらいは読んでも構わないのでしょう?」

「えぇ、それは全然…」

「ならいいの」と言ってAは椅子に坐り直す。その顔に先程滲んでいた不安の色はすっかり消えていた。

「それより、この間届いた写真の話だけど…」

 そして、Aはまるで方向性の違う話を突然始めた。まるで以前、昼の街を歩き回った時のようだ。

 そんな彼女に、キッドは相変わらずだなと思うだけで、Aの目の奥に潜む寂しさには気がつかないのだった。


 

第十六話 思い出の中の怪盗→←怪盗キッドについて



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- 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒猫@さかなねこ | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年5月22日 2時

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