怪盗と街歩き ページ40
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「……困ったことに、貴方の前では感情が勝手に身体の外へ出てしまうらしい」
「あら、それは困ったことね。…でも、相手は警察でもマジックショーの観客でもないんだし、感情を隠さなくてもいいでしょう?」
「それに、私は普通の貴方の方が好きよ」とAが顔を綻ばせた。
キッドはその弾けるような笑顔に、胸がどきりとした。以前も同じような事を言っていたからそれと変わらぬ意味で言っているのだろう。それでも、キッドの心を撃ち抜くには十分すぎた。
微かに甘やかな空気がキッドとAを包む中、唐突に「あ」とAが声を上げて通りの向こうを見た。
「あそこのアイスクリーム屋さん、いつもは混んでるのに、今日は空いてるみたい…寄ってもいいかしら」
ずっと前からどうしても食べたかったのだと、まるで今迄の空気とは見当違いな会話を始めるAの無邪気な瞳に、キッドは今度こそ彼女には敵わないような気がした。
「あら、すっかり元気になっちゃって」
一番にAの帰りに気がついたアンナが、その顔色を見てまず冗談を言った。
「おじいちゃんと話はできた?」
「えぇ、随分」
「それなら良かったわ」
Aはホールの壁掛け時計を見た。今は一時五分前で、外に出たのが大体九時を回った頃だったから、キッドとは三時間以上も過ごしたのかとAは思った。
考えればかなりの時間だったというのに、風のごとくあっという間に過ぎてしまった。
Aは胸に残る仄かな感情に、頬を緩ませた。昨日は、時計の針が進むごとに息苦しさを重ねる夜だったというのに、今となってはその感覚も思い出せない。
街を歩く間は、Aは写真のことやこの一ヶ月について、キッドは少々人目を憚りつつ怪盗先での不思議な出来事について、飽きる程話をした。
Aは今更ながら、まるで二人で一ヶ月という大きな空白を埋めていたようだったと思うと、どこかもどかしくなった。
『それでは次の満月にお会いしましょう』
別れ際、そう言ってキッドはAの手の甲に親愛のキスを贈ってくれた。Aは、慣れないなと今も火照る頬を周囲から隠すように、密かに顔を手で扇いだ。
「午後は沢山頑張らなくちゃ、バチが当たりそう」
「そんなに楽しかったの?」
「えぇ、とってもね」
一時を知らせる時計の音に、Aがいち早く立ち上がる。そんな浮かれた様子のAに、アンナもどことなく嬉しそうにするのだった。
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恋 - 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
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