第十二話 怪盗キッドの訪問 ページ35
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Aは目覚めた時から非常に陰鬱な気持ちだった。起きがけに見回した変わらぬ自室の空虚さといったら、例を見ないほどの物だった。
魂の抜けたような顔を貼り付けたAに、アンナが怪訝な目を送った。
「朝から死人みたいだけど、一体どうしちゃったのよA。昨日の夜あれから何かあったの?」
「……ううん、何もなかったの。何だか元気が出なくて…」
文字通り、何もなかったのだ。
アンナは難しい顔で、朝食をあまり食べなかったのだろうと言い、昼食はしっかり食べなさいよとAの背を叩いた。
それに頷き、憂鬱に箒を動かしていると、通りがかった執事に隣に立っていたアンナが呼ばれ、二人は奥へ行ってしまった。
一人きりになったAは束の間手を止めて、窓から晴れ渡った景色を眺めた。庭の鮮やかで清々しい芝生や、穏やかな陽の光を見ていると、少しだけ心が洗われるような気がした。
再びAが手を動かしていると、アンナが廊下奥から小走りしながらAの名を呼び近づいてきた。
「A、用事を頼みたいんだけど。いい?」
「えぇ、構わないわ」
「それじゃ、今裏口に人が来ているから相手してくれない? 貴方の方が良いのよ」
何故自分の方が良いのだろうと不思議に思いアンナを見ると、アンナは意味ありげに片瞬きをし、Aの耳元に顔を近づけた。
「貴方のおじいちゃんが来てるのよ」
「え? 私の?」
「そうよ、早く行ってあげて」
Aは眉をひそめた。Aの祖父は、確かに健在でここから二時間ほどの土地に暮らしている。しかし祖父が過去、ここに訪れたことなど一度としてない。
Aは妙なことだと首を傾げながら足早に裏口へ向かった。
しかし、裏口のそばで木製椅子に腰掛けていたのは、Aの祖父とは似ても似つかぬ小柄な白髪の老人だった。Aは足を止めて、若干警戒しつつも、物腰柔らかに声をかけた。
「おじいさん、どうなさいました?」
「……ン……オォ、あんたがAさんかね…」
老人は老いゆえか、Aが前に来て声をかけてから、反応するのに随分と間を設けた。
嗄れた声で話すと咳を一つし、老人は瞼の隙間から目を覗かせてAをみた。
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恋 - 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
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