怪盗と邂逅 ページ29
.
屋敷全体が眠り始めたのか、静けさが満ちはじめ、Aもふと眠気を感じた。しかし、ここで眠気を顔に表してしまうとキッドは宣言通りに帰ってしまう。
Aは密かに手に爪を立てた。しかし、堪えきれずに欠伸がひとつ出てきてしまった。
「時間がきてしまいましたか」
「…いいえ、気にしないで。大丈夫よ」
「そういう訳にも参りません。言ったでしょう。貴方に負担をかけたくないと」
キッドは椅子から立ち上がりAの手を取った。
キッドはAの手の甲に軽くキスを落とし、それから背を向けた。
Aは一気に寂しさが胸に込み上げてきた。
キッドが窓の取っ手に手をかける。Aは思わずその背に声をかけた。
「待って」
キッドは背後から届いたAの声に手を止め振り向いた。
そしてAの何とも言えない表情に、胸が締め付けられるような気がした。
行かないでくれという心の声が溢れそうになるのを堪えて、Aは胸が苦しい中声を絞りだした。
「……一ヶ月、楽しみにしてますから」
Aはそう言って微笑んだ。頬が張り付いて、上手く笑えたか不安だったが、仕方なかった。
キッドもまた、これから一ヶ月も会えないのだと思うと、今すぐAをこの手に掴まえてここから出て行きたいくらいだった。しかしそうはいかない。
キッドは無言で頷き、そのまま後ろ手に窓を開き、外へ飛び降りた。Aは「あっ」と声を上げて、窓辺に駆け寄った。
遠くにキッドの飛ぶ姿が見える。その姿はやはり大きな白鳥か何かのようだった。
Aはその白い姿に手を振り、みえなくなると窓をゆっくり閉じた。
ベッドに向かおうとした時、Aは見慣れぬものが枕元に置かれていることに気がついた。
一枚の白いカードに、例の男のマークが描かれたものだった。ハッとして手に取り、Aは裏返した。
「『時計も空も、全てが元の姿に戻る時、お会いしましょう。怪盗キッド』…」
Aはそれを読んだ後、これが夢でなかったのだとようやく実感し、そのカードを胸に強く押し抱いた。
419人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
恋 - 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ