Kunzite

Broken:Kanta ページ45

大好きだった彼女にフラれてもう気付けば2週間。俺の時はあの日から着々と進んでいる。いくら傷心で時が止まったような気がする、なんて言ったってただ毎秒呼吸を続けて居れば嫌でも1日が終わっていくし毎日の仕事は休みなくやって来ていた。

家の扉を開いて習慣付いていた挨拶を口に出す。


｢ただいま｣


静かで無駄に広い部屋に響く俺の小さな声。勿論返事は無い。


『おかえり〜！今日も忙しかったんだね、お疲れ様。もうすぐご飯出来るよ！』


そう言って俺の元へ駆け寄ってくるAを今でも鮮明に思い出す。考えれば考えるほど彼女以上の女性は見つけられない気がして苦しい。荷物をそこら辺に投げ捨ててコンビニ弁当を温めていると冷蔵庫にかかったホワイトボードが目に入った。

″レンジで2分温めて食べるべし″

Aが出ていく3日前に書かれたものだ。消せない現状が俺の情けない心を表している。

ご飯を食べながらテーブル端に置かれたノートを手に取った。″家計簿″と丸い文字で書かれたキャンパスノートには彼女が毎日丁寧に記帳した出費の全てが書かれている。ピラっと1枚レシートが外れた。そこには最後に行ったデートで買ったお揃いのキーホルダーの値段が書かれている。どこに貼られていたのかとページを探すとそこには彼女の可愛らしい文字で″1年記念日デート 水族館″と書き込みされていた。


『寛太の事凄く凄く好きだけど、ライフスタイルが合わないのが辛いの。だから、ごめんなさい。』


そう俺に別れを伝えた彼女はフッた側だとは思えないほど泣いていて、俺はただ静かに答えた。


｢うん、幸せになってね｣


俺の隣で幸せになって欲しいと言えたら良かった。俺の幸せはAの隣にいる事なのに。


『5年くらい経ったら私と寛太はなんの仕事してると思う？』


その質問の答え合わせはもう出来なくなった。歩く先にAが見えない。ついこの前までリアルに想像出来た未来のA。俺の妄想の彼女はふっくらしたお腹を抱えて俺の隣に居た。それももう全てただの妄想に変わってしまったけれど。

次もし会える日があれば聞いてみたいことがある。

俺と離れて幸せでしたか？そして、今幸せですか？と。

俺は今幸せです、そう言えるようになるまで後どのくらいかかるのか、そんなこと検討もつかないまま今日も嫌な程早く一日が終わって行く。きっとまだまだ時間は掛かるだろう。

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