100万回目の告白 9 ページ9
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12月の試験が終わると、もう3年生は受験への追い込みで、月に数回の登校日を除いて授業は無くなった。
俺は担任に煽てられたのもあって、東京の私大を目指し3科目に絞って勉強を進めていた。
家では集中できず、学校へ行くのも億劫で、俺は毎日地元の図書館にいた。
中3の頃、あいつと共に過ごした場所だった。
どうせあいつに受験勉強なんて必要ないだろうから来ることはないと思っていたのもひとつ。
どこかで来てくれないだろうかと またあの頃のように話せないだろうかと、期待していたのもひとつだった。
「……ここで勉強してんだ」
あいつが来たのは、年明け、三が日を過ぎた頃だった。ぶかぶかの赤いセーターには毛玉が浮いていた。
「……前いい？」
「……ええけど」
あいつは昔のように、俺の正面に座った。
「……どこの大学受けるの、ムラカミ…」
小さな声だった。
初めて聞いた不安そうなあの声とよく似ていた。
正面で顔を伏せるあいつは、ひどく怯えているように見えた。
「……怒ってる…？」
今にも泣きそうな顔をしたあいつを見て、
俺はなんだか……ひどく、安心していた。
「お前、ずっとあの調子なんか」
俺からの返事に安堵したようにかくんと頷いたあいつの顔を見て、
無意識に“お前”と呼んだこと、
そういえば彼女の名前を、いつから呼んでいないだろうと思った。
A、なんて。
「…お前がそれでええなら知らんけどな」
俺の方がお前に近い場所に居たはずなのに。
A。
彼氏のそばにいるお前は、まるで別人みたいで。
A。
俺は、ぶっきらぼうで、賢くて、
誰にもわからんこと全部わかってしまうお前のことが。
A。
すごくかっこよくて、憧れで、
そのお前のそばにいれることが、誇り高かった。
A。
A。
A。
「……鎌田君は」
「……」
「私が居ないと…ダメなんだって」
「……」
「ちゃんとね、いいところもあるの…」
「は……」
「.…そばにいてあげなきゃ、ダメなの…」
「はぁ……」
失望、という感情が正しいだろうか。
少し違うような気もする。
かと言って他の言葉は探せなかった。
俺はその時まだ17で、
あいつのために何をすればいいのかも
俺自身が何をしたいのかも
全くわからなくて
いつの間に涙を流していたあいつのことを直視もできず、机に広げた志望校の過去問に手をつけることもできず、
ただ静かに、どうにか座っていただけだった。
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作者名：猫彦 | 作成日時：2021年2月20日 11時
