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『……もう帰る。印鑑、わざわざありがとう』
変な空気になる前に、早く帰らないと。
「A」
玄関のドアに手をかけると呼び止められて、海人の方を振り向く。
「俺本気でやり直したいと思ってるから、考えといて」
海人は素直だから、嘘がなくて想いがストレートに伝わってくる。
『……うん、じゃあね』
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松倉さんの家の近くのスーパーでお酒とおつまみを買ってから帰る。
インターホンを鳴らして出てきてくれるのを待つ。
ドアが開くと、松倉さんはお風呂上がりだったのか、メガネを外してスウェット姿で肩にタオルをかけていた。
『お邪魔します』
「ただいま、でしょ？」
『た、ただいま？です』
「ふふっ、おかえり」
頭をポンポン撫でてきて、なんだか心が温まる。
「ご飯食べてきた？」
『いえ、まだです』
「じゃあ今日も一緒に食べようよ。ピザでもとらない？」
『ピザ？』
「嫌い？」
『好きです。久しぶりだなって思って』
「よっしゃ、じゃあ何にするか選ぼう」
松倉さんがスマホで出してくれたメニューを見ながら、2人でピザとサイドメニューを注文した。
それから思ったよりも早くピザが届いて、買ってきたお酒を出してふたりで乾杯をする。
今日の内見の話をしたり、松倉さんが目撃した喫茶店に来た学生の初々しいカップルの話をしたり。
話が一段落すると松倉さんはグビッとビールを飲み干して、空になったグラスを見つめる。
「……あのさ、さっきのお店に来てたお客さんって」
『はい』
海人のことだ。
きっと触れられるとは思ってたけど、触れられたくなかった。
「知り合い、だったりする？」
『……ただの顔見知りです』
「実は代金多く受け取っちゃってて」
知り合いなら私から海人に返してほしい、そう言いたそうにしていて。
でも出来ることなら私は海人に会いたくない。
自分で別れると決めたのに、これ以上海人のことを考えたらわからなくなるから。
『今日いらっしゃった店員さんとお知り合いみたいですし、連絡とっていただいたらいいじゃないですか？』
自分が思った以上にキツい言い方。
……私、最低だ。
「そっか、そうだよね。ごめん」
『すいません。お風呂入ってきます』
「うん、いってらっしゃい」
やっぱり逃げてばかりいる私は、きっと自分で自分の幸せを手放しているんだろうな。
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作者名：愛生
| 作成日時：2022年9月25日 18時
