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『あの、なにかお礼とか』


「いらないよ。元気出たならそれだけで十分です」


『でも』





悪いのは私なことに変わりはないし…と思っていると、目の前に差し出されたお水。





「Aちゃん、そういう気遣わなくていいよ。ご注文お伺いします」


『……』


「拗ねないの。ね、何飲みたい?」


『……じゃあ深煎りのコーヒーお願いします』


「ミルクは大人だから使わないんだっけ?」


『はい、大人なので』


「じゃあそんな大人には、鍵 忘れないうちに渡しとくね」


『ありがとうございます』





ニコッと笑ってサイフォンをセットし始める。





「……ねぇ」





隣の常連さんに声をかけられて、見ると何かを疑うような目で鍵を見てくる。





「鍵って松倉の家の?」


『はい』


「ふーん、そういう関係?」


『え?』


「違うの?」


『違います。そんなんじゃないです』


「へぇ」





疑り深そうな顔をした常連さんに事情を説明したら、なんだか楽しそうにニヤニヤし始めた。





「松倉ってお人好しだよね」





目が笑ってなくて、なんだか怖い。


常連さんから目を逸らすと、サイフォンでコーヒーを淹れている松倉さんと目が合った。


サイフォンの中をプクプクと気泡が浮かぶ。





「サイフォン、見るの好きなの?」


『はい』





無口そうに見えて、意外と喋る常連さん。


ボーッとサイフォンを見続ける私に向かって鼻で笑う。





「子供だね」


『え?』


「プクプクしてるもの見て喜んでるの、子供みたいだなって」


『……』





この人、失礼かも。


私が軽く睨むと、余裕そうに笑う。





「はい失礼しまーす」





常連さんと私の間に入って、今淹れていたコーヒーを置いてくれる。





「ちゃか、Aちゃんにあんま意地悪なこと言うなよ。ピュアなんだから変に思い詰めちゃう」


「それを子供っぽいって言うんだろ」





"ちゃか"っていうこの常連さん、デリカシーない。


最初は優しいって思ったのに。





「お前さ、」


『松倉さん!いいです、大丈夫なので』


「ピュアなのはAちゃんの良い所だから、気にせずにそのままでいてね」


「甘いなー」





クスクス笑っている常連さんを横目にコーヒーを飲むと、想像よりも熱くて舌を火傷した。

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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時

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