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『熱なんて、気のせいです』
「倒れたのに?」
そう言って、額に手が触れる。
『っ、』
「熱いけど」
『それも、気のせい』
松倉さんは、手が冷たく感じて私が反応したのを見逃さない。
「息荒いじゃん」
『全部気のせいです』
額に触れていた手が頭を撫でる。
そのまま頬にスルスルと移動して、顔が近づく。
まるで、キスするみたいに。
「顔赤いよ」
『それは、近いから、』
「ほっぺたまで熱いじゃん」
"はぁ……"と深いため息をついて、松倉さんは手元にあった解熱剤とスポーツドリンクを差し出してくる。
「いいから、今日はこの薬飲んでちゃんと寝て」
『……なんか、心配性のお父さんみたい』
「お父さん、ね」
わざわざペットボトルの蓋を開けてくれる姿は、幼い頃に見た看病をしてくれた父親みたいだった。
「じゃあ、お父さんの言うことはちゃんと聞くこと」
『ふふっ』
「わかったらちゃんと薬飲んで寝てください」
『はーい』
「さっきは怒っちゃってごめん」
『いいえ。心配してくださる方がいるなんてありがたいことですから』
優しく微笑んだ松倉さんは、タオルを新しく冷たいものに変えてくれて、おでこはひんやりしても毛布のおかげで身体はポカポカ。
「じゃあ、気にせずゆっくり寝てね」
ポンポンと頭を撫でた後、立ち上がって寝室から去ろうとする。
後ろ姿を見たら、なんだか急に寂しさが込み上げる。
『……あの、ひとつお願いしてもいいですか?』
「ん?」
戻ってきて目の前にしゃがんで視線を合わせてくれる。
『一緒に、寝てほしいです』
目を合わせて言うと、少し困った顔。
そうだよね、当たり前。
ただの喫茶店のお客さんが、家に転がり込んでこんなお願いまでするなんて。
でも……
『……寂しい、です』
「わかった」
メガネを外して、同じ布団に入ってきてくれる。
やっぱり、体調が悪い時って甘えたいのかな。
隣に誰かの体温があるだけで、凄く落ち着く。
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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時