検索窓
今日:11 hit、昨日:27 hit、合計:50,985 hit

20 ページ20

.






『熱なんて、気のせいです』


「倒れたのに?」





そう言って、額に手が触れる。





『っ、』


「熱いけど」


『それも、気のせい』





松倉さんは、手が冷たく感じて私が反応したのを見逃さない。





「息荒いじゃん」


『全部気のせいです』





額に触れていた手が頭を撫でる。


そのまま頬にスルスルと移動して、顔が近づく。


まるで、キスするみたいに。





「顔赤いよ」


『それは、近いから、』


「ほっぺたまで熱いじゃん」





"はぁ……"と深いため息をついて、松倉さんは手元にあった解熱剤とスポーツドリンクを差し出してくる。





「いいから、今日はこの薬飲んでちゃんと寝て」


『……なんか、心配性のお父さんみたい』


「お父さん、ね」





わざわざペットボトルの蓋を開けてくれる姿は、幼い頃に見た看病をしてくれた父親みたいだった。






「じゃあ、お父さんの言うことはちゃんと聞くこと」


『ふふっ』


「わかったらちゃんと薬飲んで寝てください」


『はーい』


「さっきは怒っちゃってごめん」


『いいえ。心配してくださる方がいるなんてありがたいことですから』





優しく微笑んだ松倉さんは、タオルを新しく冷たいものに変えてくれて、おでこはひんやりしても毛布のおかげで身体はポカポカ。





「じゃあ、気にせずゆっくり寝てね」





ポンポンと頭を撫でた後、立ち上がって寝室から去ろうとする。


後ろ姿を見たら、なんだか急に寂しさが込み上げる。




『……あの、ひとつお願いしてもいいですか?』


「ん?」





戻ってきて目の前にしゃがんで視線を合わせてくれる。





『一緒に、寝てほしいです』





目を合わせて言うと、少し困った顔。


そうだよね、当たり前。


ただの喫茶店のお客さんが、家に転がり込んでこんなお願いまでするなんて。


でも……





『……寂しい、です』


「わかった」





メガネを外して、同じ布団に入ってきてくれる。


やっぱり、体調が悪い時って甘えたいのかな。


隣に誰かの体温があるだけで、凄く落ち着く。

21→←19



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (102 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
314人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。