203話 「母の勘」 ページ10
昼からは一郎の萬屋の仕事を手伝って、そのままヨコハマに帰った。
いきなり理鶯さんのところに帰るのは度胸がいるので、あえてのキヨばあ宅。勝手知ったるように玄関を通り越して居間に向かえば滝さんもいた。
「おう、A」
『滝さん、お久しぶりです。あ、出直したほうがいいです?』
「いや、俺たちは駄弁ってただけだ」
「急にどうしたんだい?」
『ちょっと寄ってみただけ………ん?』
机の上には何冊かのアルバム。
今より少しだけ若いキヨばあと、キヨばあと同じくらいの男の人、そして………。
『俺?』
「………やっぱり、Aちゃんも思うかい?」
『思う……ってか』
「そっくりだろ?俺も初めてAちゃんを見かけた時は腰抜かすかとおもったよ」
アルバムの中の一枚の写真。
ちょっとだけ若いキヨばあと、男の人に挟まれて笑顔で写真におさまっているのは、俺にそっくりな誰かだった。顔のパーツ、雰囲気……驚くほどに似ている。
違うところと言えば目の色が黒い事、そして髪の毛がショートカットだということくらい。
「娘だよ」
『え?』
「この写真を撮った時がそうさね……娘が二十歳だったから三年前だね」
『………この男の人は旦那さん?』
「いい男だろ?……結婚が遅くて子供も諦めてたんだけどねえ……身ごもったらやっぱり生みたくてねえ……無茶したもんだよ全く……でも可愛くてかわいくて」
いとおしそうに写真を撫でるキヨばあ。俺に似た誰かは、俺と同じような顔で笑っている。ああ、キヨばあが時々遠くを見るように見ていたのはこれだったのか。
なんか最近、重ねられることが多いなあ。
「別にAちゃんを娘に重ねたりはしてないさ……懐かしんではいたけどね」
『気にしてねえって……娘さんは?』
「旦那と一緒にね、死んだよ」
『え、餅詰まらせて?』
「またそんなウソぶっこいてたのか……」
滝さんが呆れたようにため息を漏らしている。
俺は信じていた事実、どうやら嘘でした。なんやねん。
「娘さんと旦那さんはなぁ……いや、旦那さんか。ちょっとヤクザとね」
『ヤ……ヤクザ?』
脳裏をよぎった白い男。
いやいやいや、ヨコハマにはヤクザいっぱいいるから。
「旦那さんはたまたま巻き込まれただけだ。で、娘さんは……行方不明ってことになっているが」
「まぁ……もう死んでるだろうねえ」
『そんな……死体は上がってないんだろ?』
「母親の勘」
哀しそうに笑ったキヨばあ。
誰かも知らないヤクザを心底呪った。
207人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ヒプノシスマイク」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レイ(プロフ) - 夢主ちゃんの反応がホントに面白いです。ちょくちょく入ってくる他作品ネタもニヤニヤしながら見ています( ̄▽ ̄)いつまでも待っているので自分のペースで頑張ってください!応援しています。 (2019年6月3日 18時) (レス) id: 9314b0693c (このIDを非表示/違反報告)
作戦隊長(プロフ) - 寝不足ハープさん» ありがとうございます!楽しんでいただけてなによりです☆彡これからもよろしくお願いします。 (2019年5月27日 17時) (レス) id: 9eca42e73b (このIDを非表示/違反報告)
寝不足ハープ(プロフ) - 続編おめでとうございます!毎回楽しく見させてもらってます。更新頑張ってください! (2019年5月27日 2時) (レス) id: 69f8faa1c1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ