命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

二十七　ビアンカ視点 ページ27

　小さい頃、ロック好きだった母によく言われていた言葉がある。誰かに自分の考えを否定されたのであれば、中指を空高くかかげなさいと。

　どういう意味かは分からなかったけれど、人から避けられていた小さかった私を横に、ひとり中指を立てていた。その姿は眩しくて目がくらんでしまいそうだった。灰色の山肌が見渡せる高い岩山に登って、一休みが出来そうな平地に座った時のことだ。薬草を取りに行った時に、母に相談したのがキッカケだった。


　母はもう死んでしまってこの世にはいない。私は奨学金のかいあってスプリングフィールド寄りの名門大学に行っていた。小さなアパートだったし、一日に一個のハンバーガーをちぎって食べる生活を送っていた。
　でも、彼氏をたやしたことは一度だってなかったし、成績も上位に喰いこめていた。でも、友達があまり出来ずにひとりでいることが多かった。



　ある初夏の夜、いつものようにバイクレースを国道でやっていた。人がいっぱいいて賑やか。街の灯りや、豪快なカーライトに照らされて夜でも目がちかちかしそうだった。真っ暗な所なんて私の世界にはなかった。彼氏の後ろで捕まりながら、手を叩いて笑ったり、風を味わったり刺激的。
　そんな時、あいつが来た。生き屋を営んでいるというロバートだった。

　白いシャツにティーローズ色のつなぎを着て、栗色の髪の毛を耳のあたりで揃えている。心配そうなブルーアイを浮かべて、いそいそとしながら駆けてきた。走り方が男っぽくなく、びびっているのが伺える。周り(ステージ)と同化していないからよく目立つ。
　バイクから降りヘルメットを脱いだ私に名刺を渡した。

「俺のこと知ってる？ ロバート・ヘンドリックス。テレビとかでたまに紹介されてる」
「そりゃあまあ。で、そのロバートが私に何の用？」

　ロバートの後ろでは呆れ顔で腕を組む、不機嫌そうなキャロルがこちらを睨んでいた。
　私はこの二人組がすぐに恋人だと分かった。浮いている存在同士。痛んだブロンドヘアがファンキーな客と浮いており、なんだか面倒くさそうな表情も含んでいた。

「ビアンカだよね。君の書いた論文見たよ。ネットで公開されてる」
「アンタ私のクソ論文見て笑いに来たの？」
「ビアンカ。何だよそのイカさねえ奴。つか何の話？」
「知らない。私の論文見たって」

二十八　ビアンカ　ミーツ　ロバート＆キャロル→←二十六　義父vsジェームズ

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