命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

十五　ビアンカ初登場 ページ15

俺はある夢を見た。隣には白髪が光る女の姿があり、優しくにこりと微笑んでいる。木の柵の上で並んで座り、手を握り合っている。とても暖かくて居心地が良い。女の頬には深い皺があり、何処かで見たグリーンアイは輝いている。彼女の全てが美しい。年老いていても、魅力は若い頃のままなのだろう。目の前で人間と他の生物をくっついたひとつの生命が、芝生の生えた大きな庭で歩いている。追いかけっこをしたり、絵を描いたり、小石を並べて遊んだり。そして猫の尻尾がはえた五歳くらいの子供がこっちに駆けてきて、描いたという絵を見せる。その子が笑った時に見えた犬歯は見事。絵はクレヨンで描かれたふたりの老人夫婦が微笑んでいるもので、Carol、Robertと書かれていて――。
「これ、僕が描いたんだ」
「綺麗に描けてるじゃない？ 本当、私達にそっくりね」
　俺に笑顔を向ける女性はキャロル――。

　俺はうわっと叫びながら上半身を起こした。いた場所はリビングのソファ。見慣れたリビングと自分の手がそこにあった。呼吸が荒く、身体が熱い。ダッフルコートがかかっていたのか、膝元でくしゃくしゃになっていた。
　ジュッと油がはねる音が聞こえたので、キッチンの方に目を向けた。

　白のタンクトップにジーンズを履き、ストレートの黒髪を肩まで垂らしたビアンカに、白いブラウスと七分丈の黒のレギンスを履き、アレルギー反応が出にくいチタン製の金のネックレスをつけ、ポニーテールをしたキャロルがいた。
　俺は立ち上がってカウンターに置いてあるフレンチトーストをソファの後ろにあるテーブルへ運んだ。

「おはよう、ビアンカ。来てたのか」
「ロバート。ハッピークリスマス？」
「ああ、ハッピークリスマス」
「それは良かった」

　ちらりとキャロルを見ると、左眉毛をピクリと上げて鼻息を強くした。ご機嫌斜めだ。

「そういえば、昨日の仕事はどうだったんだよ？」
「ああ、うーん……」
　俺は両眉と肩を上げて、どうにかごまかせないかと考えた。
　ビアンカは事情を知らないため、開けてはならないペットボトルのフタを開けてしまった。中身はニトログリセリン(爆薬)が入っていることを知らずに。

「そうだな。上手く行ったんじゃないか？ お土産にフルーツケーキを買ってきた」
「気が利くな」
「そっちは昨日何してたんだ？」
「私は彼氏とバイクに乗って遊んでたぐらいだよ」
「そうか。楽しそうだな」

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