命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

二 ページ2

「どうも。ピア。ハッピーホリデイズ」

　ピアを地面に降ろし、抱き合ったまま目線を合わせて喋りあった。ピアの声は女性というより女の子という感じのあどけなさがあった。落ち着きのない声に虫唾が走った。俺はこの手の女の扱いはまだ慣れている方だが、長時間いるのはお互い(俺とキャロル)に限界だろう。腕時計は八時四十五分を指しており、秒針が五十秒に向かうところだった。十時に指しかかる頃には家を出られる筈だ。

　ひとつのログテーブルと六脚のログチェアがあるリビングに案内されて、お互いに真ん中の席に座った。テーブルには七面鳥に赤ワイン、シャンパン、ワインゼリーにレタスとトマトの粉チーズ、パンプキンスープ、スプーンにフォークが準備されていた。ピアの後ろはキッチンとなっており、電子レンジがオレンジ色になっていた。

「今、クッキー焼いてるの。私からのクリスマスプレゼント」
「ありがとう。嬉しいよ」

　会う目的のことしか考えておらず、クリスマスプレゼントという存在を忘れていた。ジーンズの尻ポケットに手を入れてみると、コンビニでカフェラテとチョコレートクッキーを買ったレシートがみつかった。コートからボールペンを取り出し、適当にアドレスを書いてテーブル越しにピアに渡した。

「俺のアイフォンスターのアドレス。パソコンしか教えてなかったよね」
「字、上手いのね。職業が新聞記者なだけあるじゃない」
「まぁね」

　ピアは全てを知り尽くしたような顔をして俺の肩をぽんと叩いた。俺は苦笑いを浮かべピアから目線をゆっくりとそらした。俺は新聞記者と名乗っているが本当は殺屋と生屋(あらゆる方法で生命を生み出す商売)だ。仕事上、それを伝える訳にも行かない。ピアは俺の偽のメアドを見ながら微笑み、後ろのカウンターに置いた。

「じゃあ食事にしましょう。お腹減ってるでしょう？」
「ああ。忙しくてランチは食べてないんだ」
「朝のピザ以来の食事ね？」
「そう。覚えてたんだ」
「当然！ 好きな人のことは何でも覚えたいじゃない？」
「確かにね」

　七面鳥はピアがダンドリよく取り分けてくれ、あっという間に食べるところがなくなった。スーパーから買ってきて温めただけのスープも美味しく感じ、粉チーズだけがふりかえてあるサラダも喉の通りが良いように感じた。ただワインの類は仕事のためだと伝えて一口も飲まなかった。ピアは口元で笑いながら鼻で溜息をついた。

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