命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

【第一章】　一　I fulfill your dream ページ1

人が自分以外の生物の痛みを理解出来るならば――。

　二二〇〇年十二月二十四日、アメリカ・マサチューセッツ州(北緯四十一度、西経七十二度)のウースター・タギシー中級住宅街では、クリスマスのライトアップがどの家でもされており夜の街を賑やかに彩っていた。

　白い袋を担いだサンタクロースがベランダやポーチにいて手をふっていたとしても、その近くに白く光るトナカイがいたとしても、雪の被ったクリスマスツリーが飾ってあったとしても、タギシーの通りを歩いているのは俺だけでそれ以外の見学者は誰ひとりとしていない。何処からともなく砂糖と小麦粉の甘い匂いが漂ってきて俺の腹を苛立たせていた。

　俺がむかっているのはマサチューセッツ州とそのひとつ南下にあるロードアイランド州に膨大な土地を持つブレアム家のひとり娘ピアの所だった。フェイスブックに登録してあったためキャロルが二分もかからずに探しあて、連絡を取り合い、今晩会うことになっていた。聞いた話ではピアは親に甘やかされて我儘娘に育ち、裕福な生活をしていた。だが突然親に見放され、一年前にひとり暮らしを初めたらしい。彼氏募集中とのことだったので、此方から攻めて行く必要はなかった。

　ピンク色の屋根で赤色のポストの横に白いトナカイが立っている、ジャクシー方面から来て四番目の通りにある、扉に銀色のクリスマスリースを飾っておくとのことだった。俺は栗色のやや長い髪をしており、膝丈の黒いダッフルコートを着て、身長は百七十センチメートルほどだと伝えてある。
　屋根は雪で見えないが、ポストの横に白いトナカイが立っていて、扉に銀色のクリスマスリースが飾ってある家を見つけた。どの家よりもシンプルな飾り付けをしており、素朴な感じが隠せない。お嬢様だからしたこともないのだろう。腰ぐらいまでの小さな門を押して入っていき、銅色のドアノッカーを握った。

　ピアは数秒も経たないうちにドアを開け、にこりと俺に微笑み腕を広げて飛び込んできた。ピアの足が少し宙に浮くほど高く持ち上げた。喜びの印だ。ピアはライトブルーのシルクのセーターを着て、背中に長く伸びたブロンドの髪をゆるく巻いていた。色白で目は薄い水色をしており、鼻は高く、唇は横に長くショッキングピンクの口紅を塗っていた。そしてユーフォリア・ブロッサムの香水がぷんぷんしていた。花の香りをきつくしたような、俺の嫌いな匂いだ。
「やだぁ、写真で見るよりすごくかっこいい」

二→

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