〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

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(コレが愛ならば、彼女をこのまま手の内に沈めてしまえればいいのにな)

 そう思ったソイツが、なんて浅(あさ)ましいんだ。と自嘲(じちょう)した事なんてオレには分からない。

 その末(すえ)に、ソイツは口を開いて。


「コレが愛だと言うなら――私は永遠(えいえん)の愛を誓(ちか)うよ」

(――っ)

 オレはソイツを見る。その目は慈(いつ)しみを、優しさを、愛を映してオレを見る。

 不滅(ふめつ)の愛なら、沈んでも問題ないんだろう？ と、ソイツはそう言うんだ。


「……なんで……」

 分からない。オレは解(わか)らない。――なんで、そうまでしてオレに愛を注(そそ)ぐ？ 注げるんだ？ と、オレはただ、疑問(ぎもん)を口にした。

「オレは、アンタにそこまでのモノを貰(もら)えるほどに何かをした覚えがない」

 そう言えば、クシャとソイツは笑(わら)って。

(充分(じゅうぶん)だよ。君は私に安らぎと好(この)ましい時間をくれた。私自身がもう、君に溺(おぼ)れているんだ)

 ソイツはその想いのままに口を開く。


「充分なモノを私はもらったよ。安心できる時間を、好(す)きだと思える時間を、尊(とうと)いモノを見せてもらった」

 左腕(ひだりうで)を引っ張(ぱ)られる。座ったまま体勢(たいせい)を崩(くず)せば、ソイツの身体(からだ)に包(つつ)まれる。

(コレは紛(まぎ)れもなく愛なんだろう。恋愛(れんあい)感情か分からなくても、コレが例え依存(いぞん)だとしても。それでも――この言葉に偽(いつわ)りはない)

 ソイツが思考(しこう)して。そして、ソイツは口にする。


「愛してるよ、浅上さん」

 鼓膜(こまく)に、オレを堕(お)とす誘惑(ゆうわく)が運ばれた――



 
 

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