〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

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「おかえり、浅上さん」

 微笑(ほほえ)んでそう言うソイツの言葉に、オレは力無く静かに頷(うなづ)く。

「…人が居なさそうなトコに行こう」

 そう、元気無く言葉を発する。


「…浅上さん、どうかしたかい？」

 その言葉に答えること無く、オレは歩き始める。

 ソイツはその反応に何も言わずに付(つ)いて来る。

 あの人達の慟哭(どうこく)が、頭から離れない。父さんと母さんを失ったあの夢(ゆめ)を思い出す。

 その恐(おそ)ろしい事が、実際(じっさい)に起きてしまったあの人達を思うと、胸(むね)がどうしようもなく苦(くる)しくなる。

 青々とした空。上空に広がるのは良い天気なのに、オレの気持ちは反対だ。

「苦しいな――」

 と、静かにオレは吐露(とろ)する。






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「――……理解してた。護(まも)れる範囲(はんい)には限界(げんかい)があり、全てを護れるわけじゃないって」

 彼女は俯(うつむ)いて、知ってたさ――と口にする。


「オレはオレの出来る限(かぎ)りをしてるつもり。……だけど、その裏(うら)ではオレの巡回(じゅんかい)出来ない範囲で誰(だれ)かが傷付(つ)き、生命(いのち)を落としてるんだ」

 その言葉を聞く私も、彼女の姿(すがた)に胸(むね)を痛める。

(何故、彼女が傷付かなくてはならない？)

 何故、猿共(さるども)を護(まも)り、守り続ける彼女が、心を痛めなければならないんだ？ と自問自答(じもんじとう)する。


「――誰しも死(し)ぬものだよ。嘆(なげ)かないで、浅上さん。君は自分の出来る限りをしているのだからね」

 それでも、彼女の姿には悲しみが映る。

 こんな状態(じょうたい)の浅上さんを、独(ひと)りにはしたくない。

 私が帰れば、彼女は独りで苦しむ。

 どうしても、私はそれを避(さ)けたかった。

 私は――意を決(けっ)する。

 私は次の瞬間(しゅんかん)、呪力を込(こ)めた拳(こぶし)で彼女の後頭部(こうとうぶ)を殴(なぐ)った――――



 
 

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