〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

３話 慟哭を目にして ページ11

 


「万一(まんいち)呪術高専の連中が来てたらマズいでしょ。アンタは見つからない場所にいて」

 そう言い残し、オレはアスファルトの小さな道に着地する。

 病院は大きい。近くに建っているのが見えた。

 オレは出せる全力で走る。


「中に入れて下さい！ 死(し)んだってどういう事ですか！！」

「優香(ゆうか)が帰ってこないし、連絡(れんらく)も取れないんです！！」

 家族らしき人集(ひとだか)りが出来(でき)ている。その頭上(ずじょう)を飛び越えて正面玄関(しょうめんげんかん)から中に入った。

 それは一瞬(いっしゅん)だ。常人(じょうじん)は反応どころか気付(きづ)くことすら出来ないから問題無い。

 スピードを緩(ゆる)めることなくオレは走る。

 直刀(ちょくとう)を出現させ、霊力を刀身(とうしん)に流し込(こ)んで走った。

 刀身にピンクの混じった薄紫(うすむらさき)っぽい光が纏(まと)われ、輝(かがや)く。

 エレベーターなんか待ってらんない。オレは階段を見つけて駆(か)け上がった。


「クソォォォ！！ 何なんだこれ！！ 助けてくれよ！！」

 警察官(けいさつかん)の制服を来た男性が腰(こし)を抜(ぬ)かして叫(さけ)んでいる。その奥(おく)には醜(みにく)く膨(ふく)らんだ幼虫みたい悪霊がいた。

 巨大な幼虫という気持ち悪さに、滅多(めった)に表情を変えないオレも眉(まゆ)を顰(ひそ)める。

 ――それと同時だ。オレは突(つ)き斬(き)りそれを浄化(じょうか)する。

 そのまま、まだある悪霊の気配(けはい)に向かって駆(か)け抜(ぬ)けた――







 慟哭(どうこく)が、絶望(ぜつぼう)の鳴き声が響(ひび)き渡(わた)る。

 オレはその人集(ひとだか)りをただ見つめる事しか出来ない。

 どれだけの絶望が、その人達に襲(おそ)いかかっているのだろう。

(九尾……)

『……何だ』

(……アイツの気配を捜(さが)して)

『…………まずは右だ』

 その声に、オレは歩き始める――――



 

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