聞こえますか、この声が。 (ページ41)

今日:10 hit、昨日:10 hit、合計:138,097 hit

ep.41 ページ41

正門side

「おっちゃん、いつもおおきに。」

「おうよ。まあ、大した情報じゃねえけどなぁ。せいぜい役立ててくれや。」

馴染みの情報屋と市内の決まった場所でいつもの取引。

スラム街にいる俺らと、市内で潜伏する情報屋とでは、やはり情報の密度が違う。

「しっかし、お前らも若いねぇ。国に楯突く気満々ってわけか。」

髭面のおっちゃんも、昔はレジスタンスの一員だったらしい。まあ、今じゃそんな面影もないけど。

でも、俺のこと気に入ってくれてるか知らんけど、破格の値段で質のいい情報をくれる。

「なあ、正門の坊主。別に俺はお前らの計画が不可能なんて思っちゃいねえがな。

....気をつけろよ。

死に急ぐな。

この国の闇っつーのはな、お前らが思ってる以上に強大だ。」

「うん。ありがとう、おっちゃん。肝に銘じどくよ。」

そういって、報酬を渡せば、おっちゃんは封筒から半分抜いて、残りを俺のポケットに押し込んだ

「スラム街のガキ共に菓子でも買ってやれ。」

「お人よしやなぁ。おっちゃん。」

「やめろや。」

手をヒラヒラと振って俺に背中を向けたおっちゃんが、ふと立ち止まり

何かを思い出したように戻ってくる

「ひとつ言い忘れていた。

まあ、これは確証がある情報じゃねえからな。鵜呑みにするかしないかは、お前に任せるが。」

「何？」

「最近、政府内で急激に勢力を伸ばしている奴がいる。

名前は、確か......ああ、そうだ。

下の名前はわからんが、苗字は佐野。」

聞き慣れた苗字に思考が一瞬止まる

「....佐野....。」

「おう。元々は、政府の事務官だったらしいんだが、いつの間にか幹部入りしていてなぁ。

今や大阪市内ではナンバースリーくらいの立ち位置まで成り上がったやり手らしい。」

佐野。

『もう、誰も悲しまない世界にしたいんです。』

なんで、あいつの顔が浮かぶねん。

佐野なんて苗字、別に珍しくもないやろ。

晶哉が、関係あるわけないやろ。

「坊主。年寄りの忠告は、聞いとくもんだぞ。」

おっちゃんの珍しく真面目な表情に何も返せず。

無性にざわつくこの胸を、早く落ち着かせたくて

踵を返して埃っぽい街を走り出した