第34話 ページ35
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「_いつまで寝てますの」
「!」
目を開いて、先ず飛び込んできたのは磨き抜かれたシルバーナイフだった。
文字通り真っ直ぐに飛んできたそれを咄嗟に左手で掴む。
「_いッ」
完璧なタイミングだったのに左手からは血が流れる。
驚愕しよく見ると、ナイフで付いた傷ではない。
まるで何かを力強く殴ったような痣と、掌には爪の食い込んだ痕。
「貴女がそこまで驚愕しているのは初めて見ますわね」
「……いきなりナイフとはご挨拶ですね」
「わたくしを前に居眠りするからですわ」
反省の色などまるで無く、寧ろ当然であるという風に微笑んで紅茶を啜る美女。
ワインレッドの洋装は腰の切り返しに純黒のフリルスカートを纏い、白い上着とロングブーツがしなやかな細身を包む。
時計塔の従騎士、近衛騎士長のアガサ・クリスティ爵。
「其の薄汚れた服は何ですの? わたくしが差し上げたドレスが気に入らなかったとでも?」
「此れは」
此の服は、××の選んでくれた_あれ?
「貴女の口は飾りですの? もう御開きにしても宜しくてよ」
訳:具合が悪いなら休んできなさい。
大丈夫、頭は正常に働いている。
「いえ。お気遣いありがとうございます」
広がるのは彼女自慢のティーセット。
純白に金細工があしらわれた高貴な茶器、宝石のように輝く菓子たち。
奥の美女と合わせて一枚の絵画のよう。
「貴女の異能力で早く着替えなさい。アフタヌーンティーが冷めてしまいますわよ」
「そうですね」
此の服は相応しくない。
「異能力__……」
いのうりょく?
身体が僅かに重くなる。
ドレス特有の質量と、締め付けるコルセット。
少し巻かれた横髪が視界で踊った。
「また随分と間の抜けた顔をしますわね」
そう言う割に彼女は満足そうに私を見ている。
そして左手を見て、咎めるように目を細めた。
「態々包帯を巻きましたのね。治さずにいる意味があって?」
「あぁ、忘れていました」
「貴女は本当に自分の事に鈍いのね」
興味を失ったように視線が外される。
彼女の白い手袋を纏った細い指先は再び茶器に伸ばされた。
「いつも嵌めている指輪を忘れたのも、大した理由では無いのでしょう」
指輪?
「また島国に行くんですってね。次の茶会は此の英国でなくてわたくしの…」
声が遠退いていく。
ぐるぐると景色が回る。
「A、聞いてるの?」
闇に落ちていく。
落ちていく。
遠退いていく。
呼吸が苦しい。
息が出来な
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時