双黒に嘘をつく【文スト】 (ページ4)

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第3話ページ4

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「首領、中原です」

そういえば名前を初めて聞いた。

上から下まで思わず見てから、開いた扉に続いて入っていく。

寝ていた部屋から数フロア上がっただけだと言うのに、このフロアの窓には青い空しか写っていなかった。

「漸くお目覚めかい」

にこやかな笑みの奥にある鋭さが、ほどよい緊張感を誘う。

「記憶など、報告は既に提出した通りです」

「本当かい？射撃の腕がかなり高い様だね」

「立原と競わせましたが、対象が遠いほど正確に撃つので」

「それは近接戦にはナイフを使うからかな」

「腕力がない分、上手く急所を突いていますね」

この数日、あちこちとフロアを移動して戦闘能力を試されていた。

鞄に入っていた愛用のリボルバー、護身用ナイフが見つけられていたためだ。

どうやらお眼鏡に叶ったらしく、終いには教える側に回る羽目になったりと何かと忙しく過ごしていた。

そして、分かったことがある。

この世界は私の住んでいた世界ではなかった。

通貨や言葉、四季など一日24時間であること、日本であることには変わりない。

ただ、日付だけが10年近くずれていた。

黄ばんだ手帳にかかれた年と、力尽きたうんともすんとも言わない通信機が無言で証明していた。

私の姿はぱっと見変わらないし、身体能力も衰えは見られないためどういう基準でタイムトリップしたのかは不明のままだ。

「嘘を見破る能力、だったね」

ポート・マフィアのボス、森鴎外。

その彼が私に視線を向けてきた。

中原さんが黙ったので、話す許可が出されたとして頷く。

「はい」

「倒れていた君を診察したのは私なのだよ。あぁ、こう見えても医者でね」

「助けて頂いたそうで、本当にありがとうございました」

今日はボスに初のお目見え、ということで上等な服を身に纏っている。

この数日働いたとして貰う給料を前借りして買って貰った。

何故か中原さんが選んでくれたため、センスが恐ろしいほど光る服になっていた。

「それで、君の今後についてなんだがね」

「はい」

すぐに殺されることはなさそうだ。

それなら幾らでも殺す機会はあったから。

思いの外優秀だと認識された、素性の分からない女。

「戸籍は用意しよう。今日から君は、補佐として中原君についてもらうよ」

「承りました。よろしくお願いします、中原さん」

あっさりと承諾したことをまたボスは可笑しそうに笑う。

「通りで、妻であるエリスちゃんも君を気に入るわけだね」