episode 32:心中 ページ35
この決断に後悔はない。迷いももうない。
道中霊基再臨が始まり、纏う衣装も少し変わった。心なしか魔力も上がっている。
走っている間も蛇の襲撃に遭った。しかも上から。きっとどれかのビルにいるんだろう。
「……見つけた!」
蛇で体を押し上げ屋上に降りると案の定彼女はいた。
「霊基再臨……レベルアップしてきたってわけ?いくら強くなっても所詮は霊核も不十分な存在。聖杯で補強した私に勝てる筈ない」
「私にもう争う気はない。話し合いに来たんです」
は?と怒りの混ざった声が聞こえた。
「今更話し合い?意味わかんない!散々否定してきたくせに!」
「確かに私は貴女を否定してきた。ただ貴女を殺せば終わると思っていた。けれどこのままじゃどちらが消えても消えた方は納得しない」
「だから私達には話し合う必要がある。互いに向き合って、誰にも邪魔されずに」
ゆっくりオルタに近づく。対するオルタはどんどん後ずさりしていく。
蛇を差し向けられるが怯まず進む。そうしてとうとう私達は互いの手が届く距離まで近づいた。
「今まで貴女を否定してきたことは謝ります。私もやっぱり自分のエゴしか見ていなかった」
「どちらが本物でも偽物でもない。どちらも本物で、2人で1人の人間だからこそ、一緒に“私達”を見つめ直す必要があるんです」
優しく“もう1人の私”を抱きしめる。抵抗はない。
「……ありがとう」
私達はゆっくり歩きだし、そして私は詠唱を始めた。
「八の眼は汝を射抜き___八の牙は矛となりて、汝の心臓を貫く」
「“そして我が身は鉛となりて、汝と共に空想に沈もう”「
そして同時に私達は屋上から身を投げた。
黒い蛇が何重にも重なって私達を飲み込む。中には光もないし、音もない。
「……自分まで犠牲にするんだ。自分に益があるとも限らないのに、“君はそれでも、世界の味方をするんだね”」
「!……いや、益ならある。そう確信してる。それに英霊になったのだから、世界がちゃんとある限り何かしらいいことがあるよ。例えば……今回のように」
「はっ、どうだろうね……」
その会話を最後に私達は揃って串刺しとなった
2つ星が落ちるところを立香は見た。片方は星屑を散らして、最後には消えてしまった。
エミヤは星の正体を見た。それは1人の少女で、手には輝く杯が収まっていた。
「走れマスター!今なら間に合う」
事を察した立香は弾かれたように落下地点に向かった。
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作者名:巳月 要 | 作成日時:2017年12月25日 22時