episode 27：既に皆聖杯の中 ページ30
剣と槍と蛇が入り交じる戦闘で､藤の瞳はまるで他のものが見えていないかのようにじっと私だけを見ていた｡
今も弓兵が放った矢は音を立てて寄ってきた羽虫のごとく蛇に喰われてしまった｡
｢広い場所に引きつけよう｡アルトリア､日が落ちきったら一気に宝具を｣
｢はい､まずは道を開きます!｣
聖剣から生み出された風が廃屋に穴を開ける｡崩れる壁を見ると向こうの私は顔をしかめて言った｡
｢あーあ､せっかく綺麗に残しておいたのになにしてくれてんの｡人が残ってたらどうしてたわけ?｣
｢……まぁ､どうせすぐ直るんだけどね｣
彼女が言うと崩れた壁がみるみるうちに修復されていく｡咄嗟に廃屋の中に飛び込んだが､直りきった後見てみるとヒビ1つも見えなかった｡
｢なんだこりゃ｣
｢物体の復元……いや､時間を巻き戻したようにも見えました｣
｢自動で行われる復元……有り得ない話ではありません｡オロチオルタさんの願いは恐らく｢理想の世界の形成・維持｣｡復元も聖杯の力と言えば納得できます｣
"やぁ､話は聞かせてもらったよ｡冬木の聖杯は持ち主の願いを破壊によって叶えると聞いていたが､平気そうだね｡いや､一度全て壊して再構築したのかな?"
飄々とした声で話しながらダ・ヴィンチ氏はモニター越しに全員の顔を見渡した｡
"突然の戦闘で大変だったところ言いづらいんだけど(いや別に言いづらくないけど)､すぐにそこから出た方がいい｡冬木の聖杯はイレギュラーだ。そんなものが造った世界なら地形の変形位は覚悟した方がいい｡まぁマシュの言った通り向こうの願いが｢世界の維持｣ならそこまでしないと思うけど"
"おっと､そろそろロマンに怒られるからこれで失礼するよ｡それと､そこを出たら霊脈の所に行くといい｡程よく開けてるしマナもある｡少しは魔力の足しになるだろう｡
道中も気をつけてね｡君たちはあの聖杯の中に居るようなものだから"
霊脈の場所といえばお祖母様の屋敷だ｡場所としてはいいが､あそこはもう1人の私の拠点である可能性もある｡鉢合わせてしまうのではないか?
｢これで行き先は決まった｡開けた場所を通りながら霊脈の場所に行こう｣
また壁を壊し夜道を走る｡
少しの不安で脚が重かったが､ダ・ヴィンチ氏の言った通り既に私達は聖杯の中に居るも同然､今更危険も何も無いと割り切ってマスター達について行った｡
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作者名：巳月 要 | 作成日時：2017年12月25日 22時
