episode 26：理想から本物へ ページ29
レイシフトから1週間と半週経った日の夕方､彼女はまた私たちと前に現れた｡
｢観光楽しんでる?どうかな新しい渋谷は｡犯罪者はいないし大人も子供もずっと笑顔､いい所でしょ?こっちに来る気になった?私の左目｣
藤色が私をまっすぐ見つめる｡蛇に睨まれた蛙のように固まった私を弓兵と槍兵が背中に隠す｡
｢……邪魔しないでよ｡今話してるのは君たちじゃない｡それとも何?意見は聞かないって?人理修復の為に喚んだからそれだけの為に動けって言うの?
｢ち､違う……私は､歴史の改変なんて……｣
｢違わないよね｡この世界と私の存在が証拠だ｡大切な人ともっと笑っていたかった｡平和に暮らしたかった｡そうでしょ?｣
ニヤリと笑った瞬間彼女の姿は消え､次には私の背後に回り込んでいた｡
｢反応も出来なくなってる｡私を敵だと認識でないんでしょ｡そう､私は敵じゃない｡君と願いを叶える味方だ｣
伸ばされる手から逃れ距離を置く｡駄目だ､反撃ができない｡反撃しようと思えない｡
私が願ったからいけないのか｡私が望んだからいけないのか｡
私の小さな願いが､望みが､歴史を歪めてしまったのか……?
｢先輩､撤退を提案します｡オロチさんの様子がおかしいです｣
｢嬢ちゃんに賛成だ｡癪だが､こっちの分が悪い｣
｢……すみません｡私も賛成です｡今の私にオルタの相手はできません｣
｢逃げるの?なんで?私は間違ってないよ｡“私たち”は間違ってないよ!村の連中はどうでもいいけど､お祖母様だけは別だ｡私を唯一ちゃんと愛してくれた｡真っ直ぐ私を見てくれた｡なのに……なのにお祖母様は殺された!私と逃げた時村に殺された!｣
パッと記憶がフラッシュバックする｡幼いこの目に焼き付いた､槍に貫かれるお祖母様の姿が鮮明に蘇る｡
嫌だ､見たくない｡もっと話していたい｡笑っていたい｡
でも彼女の側に行ったら……
｢お祖母様と笑えるように平和な街を作らなきゃ!そうでしょ?……なんで頷いてくれないの｡そう思わないの?そう……変わっちゃったんだ｡じゃあいいよ｡私が君の中に戻るんじゃなくて､残りの核を取り込んで､私が本物になる｣
辺りの空気が変わる｡震えるような威圧が私たちの体に走った｡
"なんだこれ!オルタの魔力が跳ね上がったぞ!?"
｢これが､オルタの本来の力……皆､戦闘準備!｣
マスターの合図が響く｡上手く動けない私は後衛にまわって戦闘態勢に入った｡
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作者名：巳月 要 | 作成日時：2017年12月25日 22時
