滑走46 ページ6
夜、寝付けなかった。
明日から、春高が始まる。
試合は明後日だけど、明日は練習をしたり会場の雰囲気を感じに行くのだ。
バレたら怒られることは分かっていたが、どうも落ち着かなくて、泊まっていた部屋から抜け出してしまった。
すぐ近くに公園があるのは知っていたから、冷えたブランコに座った。
「東京でも普通に寒いな…」
マフラーに顔を埋めて、息を吐く。
寒さに頭が冴えて、落ち着いていた。
「お前はほんとに何やってんの」
声が聞こえて振り返ると、同じようにマフラーを巻いて何枚も着込んだ及川さんが歩いてきていた。
キィ、と鎖が音を立てて、揺れる。
及川さんの吐いた息が白くふわりと闇に溶けた。
「すんません。…でも、眠れなくて」
「俺も、なんか眠れなかったんだ」
それを聞いて、少し驚いた。
及川さんはなんやかんや言われても結局はかっこいい主将で、頼れる人で。
だから、緊張なんてしても、すぐに乗り越えてしまえると思っていた。
「でも早く戻って寝ないと、ですね」
「そうだね。……ねぇA」
パチリ、と、及川さんと目があった。
栗色の瞳が月の光に反射してキラキラとしていて。
くらみそうになる。
「なんですか?」
「改めて、入部してくれてありがとう。お前がいなきゃここまでこれなかったよ」
柔らかく、溶けてしまいそうなくらい優しい笑顔。
そんな彼に、吸い込まれてしまいそうだった。
「っ、そんな。…お礼を言うのは俺です。あんなに拒否ったのに、俺を諦めないでくれてありがとうございます」
「AよりAを諦めてないのは俺だからね」
「たしかに」
小さく閑静な公園に軽い笑い声が響いて、落ちる。
気持ちはひどく落ち着いていて、今すぐにでも眠れそうだった。
「…戻ろう。明日もバレーするんだから」
「はい」
東京は宮城より星が少なく思えたけど、その分月が際立って眩しく見えた。
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春風駘蕩(プロフ) - if作品でこんな面白いの初めて見ました、やべサイコー (2022年1月23日 16時) (レス) @page21 id: 7ec3b8ebfc (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - 蓮Kさん» 私はMBでした! 今はしていませんが、基本的にはブロックスパイクのポジションで時々セッターしていましたが、レシーブ力がゼロに等しいです笑 蓮Kさんはレシーブが得意なんですね……羨ましいです! (2019年4月5日 11時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - おがさん» お気に入り作者登録ありがとうございます。今はこのぴーなつというあかうんとで活動しているので、よろしければまたよろしくお願いいたします (2019年4月5日 11時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
蓮K - 作者さんはポジションどこですか!?自分も現役でリベロとセッター(仮)をしています!(正セッターと対角の位置で、正セッターから反対のところに上がったワンをトスで上げる) (2019年4月1日 0時) (レス) id: 6793fee399 (このIDを非表示/違反報告)
おが(プロフ) - すごい面白かったです!別バージョンも読みたくてお気に入り作者にさせてもらいました!もし機会があれば楽しみにしているのでお願いします! (2018年7月19日 21時) (レス) id: d1e3462194 (このIDを非表示/違反報告)
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