留守電 ページ48
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右手に銃、左手に聖の手を強く握って、ゆっくりと湖の方へ足を進める。
段々と浅くなっていく呼吸を整えるように深呼吸する聖の手を離して、一緒になってフェンスを乗り越えた。
フェンスに背中を付けて水面を見つめる聖の隣で、目を瞑って唱える。
「御鏡様 御鏡様 汚れを祓い 身を映し どうぞ私を運んで下さい」
暫くは何も起こらず、ただ聖の浅い呼吸が聞こえるだけで。
やがて何かが聞こえて来たと思ったら、それは酷く奇妙な感覚を呼んだ。
『おいで おいで さあこちらへ』
確かに自分を呼ぶ声は聞こえるけれど、何が奇妙かって…
「おかあ、さん……」
「い、一色さんも…？」
「え…、聖も、お母さんに呼ばれてんの…？」
コクリと頷く聖は泣きそうな顔でこちらへ手を伸ばして来て、その手を強く握って顔を見合わせ、2人で足を踏み出した。
手は離さないまま足を進めて、水面の感覚を確かめる。
ーー普通に、地面を歩いてる感じだ
『さあ こっちよ おいで おいで』
さあこちらへおいでおいでと自分を呼ぶ声が、本当に母のものである筈など無いのに。
もう忘れたと思っていたその声は、驚くほど昔の光景を懐古させた。
強く握った手はずっとそのまま、段々と湖の中心へ近付いて行く。
ナナミンに電話したけど、繋がらなかった。
電波が通っている事は確認しているので、ナナミンが携帯を取れない状況にあるか、電波の届かない場所にいるか。
留守電は残したので後者ならこの異常事態はいずれ伝わる筈だ。
波ひとつないと思っていた水面は、中心へ近付くと波紋が広がっている事が分かって。
「聖、行くよ」
「は…はいっ」
顔を見合わせて、波紋の中心へと足を伸ばした。
＊
「ッ…伊地知くん！位置情報を送ります、今すぐ此処へ一級、せめて準一級以上の術師を！なるべく早く！」
『えっ、は、はいっ！七海さん、一体何がっ、』
事情を説明する暇もなく、携帯を内ポケットへ戻す。
と殆ど同時に呪霊の攻撃を往なした。
携帯が鳴っている事には気付いていたが、とても出られる状況ではなかった。
けれど出れば良かったと思ったのは留守電にメッセージを残す一色くんの声が聞こえ始めてからで。
『七海さん、一色です。聖が御鏡様に呼ばれてるって言うので、俺も行きます。ヤバくなったら銃撃つので、聞こえたら来て下さい』
あくまで冷静な声で吹き込まれたそれは、明らかに止めた方が良い内容だった。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2021年4月29日 19時
