ワガママ ページ5
.
「え…?」
「だから要、淳司さんの所に行ってくれないか?」
「ちょ、ちょっと待って。展開が急すぎるよ」
嬉しそうにカステラを頬張っていた要は困惑した様子で立ち上がり、恵と俺を交互に見遣る。
今更折れる事は出来ないから、その眼をジッと見つめ返した。
やがて要はふっと表情を変えて椅子に座り直し、眉根を寄せて尋ねる。
「…それ、呪霊って危ないんでしょ?」
「うん」
「兄さんがやるのは、危ないこと?」
他に何も含まない純粋な不安と心配を真っ直ぐにぶつけられてキュッと唇を結ぶ。
隣に座る恵がこっちを見たのが分かった。
少し、息を吸い込む。
「大丈夫。俺は危なくならない為の術を教えて貰いに行くんだよ」
「本当ですか…?」
「ああ。強くなって、自分と人々を助ける。その為の勉強だ」
不安そうに問う要に恵は頷いて答え、それを聞いた要の表情は、風に吹かれたように変わった。
「…じゃあ、僕からは何も言わない。伏黒さん、兄のこと、宜しくお願いします」
「ああ、担任に伝える」
「ははっ、そっか」
要は漸く笑顔を見せて、それを見て俺も漸く肩の力が抜けた。
ーー要はあまり体が強くない。
すぐ風邪を拾ってくるし、偏頭痛や貧血に悩まされてるし、インフルなんて毎年のように罹ってる。
それなのに要と離れるのは心配だし辛いけど、もし俺が不意に死んだりしたら要はどうなるか分からない。
優しい親戚はいるけど、不安だから。
「ごめん要、自分勝手で」
「兄さんが変なのにいきなり襲われて死ぬよりマシだよ」
「ははっ、だよな」
物分かりの良い頭の良い子でよかった。
自分勝手な兄で申し訳ないって、きっとこれからも一生そう思いながら生きていく。
でもきっと死なないでいるから。
人生で一回だけだから。一生のお願いを、ワガママを、どうか許して欲しい。
笑顔が戻った要の頭をポンポンと撫でて、そっと微笑み返した。
.
101人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2021年4月29日 19時