†佰弐拾捌† ページ9
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ある日から、俺の記憶が
一部欠けている事に気がついた。
足りないのだ。記憶が。
そもそも、俺がこの本丸に顕現された頃の記憶がない。
主と話すときも、本当に彼は俺の主なのかと
疑う時がしばしばあった。
そう思い悩んでいた頃、
兄者が時折不思議な事を口にする一面が
あることに気づいた。
膝丸「兄者…………何を見ているのだ？」
髭切「嗚呼、弟。見てごらん？蝶だよ。綺麗だね。
…………蝶は元は“芋虫”なんだって」
膝丸「…………そうなのか？
兄者はどこでそれを知ったんだ？」
髭切「“主”から聞いたのさ」
兄者の言う主…………俺は今の主と俺の持ち主であった
源氏の者らしか知らない。
だが兄者が言っている“主”はまるで、
別の者を指しているようだった。
俺には今の主がそんな事を言うような
人物とは思えない。
膝丸「(あの、主…………が？)」
髭切「それにしても、どうして蝶は
緑色じゃないんだろうね。
芋虫の頃は葉も食べるし、色も緑色だし。
それだったら…………お前の名前も、
覚えられるだろうに」
その時の兄者は、どこか心あらずで。
いつも飄々として掴み所が
分からないのは確かなのだが…………
手に止まる蝶を見る兄者は、
消えてしまいそうなほど、穏やかな表情だった。
どんな心情だったのか今でも分からない。
悲しいのか、寂しいのか…………
俺にも分からなかった。
だが、今となれば…………
あのとき兄者の心情が分かっていれば、
あんなことになることは無かったのかも知れん。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
髭切「捕まったら最後だったかな。
記憶を抜き取られる」
膝丸「な、に？兄者は…………知って、いたのか」
髭切「まあね、お前ももう
何回忘れたかな？“彼女”の事…………」
膝丸「忘れ、た？」
髭切「おかしな話だね。僕は忘れなかったのに。
彼女がくれた、御守りのお陰かな」
その日、我らは審神者によって結界の中に捕らわれた。
面の妖が止めどなく襲いかかってくる中で、
兄者はそう口にした。
兄者の言葉で、俺の中にある知らないはずの
記憶の正体が分かった。
俺は“記憶を奪われた”のだ。
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冷泉 雪桜(プロフ) - tomo10260403さん» コメントどうもありがとうございます！薄桜鬼も読んでくださって……感謝でしかないですね！これからもよろしくお願いいたします (2019年9月17日 12時) (
レス) id: 18535e1a43 (このIDを非表示/違反報告)
tomo10260403(プロフ) - 冷泉 雪桜さまの作る作品の虜になりました！薄桜鬼も刀剣乱舞も一気に読んでしまって、小説を読むのが苦手なほうなのですが、のめり込むようにするすると入ってくる文章に、夢中です！ (2019年9月16日 17時) (レス) id: f4aa91fff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2019年9月6日 1時
